マンU、当然の帰結としての世界一=クラブW杯

埋められない差

今大会も欧州王者とそのほかのクラブの差が浮き彫りになった 【Getty Images】

 知性溢れるリガ・デ・キトのアルゼンチン人監督、エドガルド・バウサは言った。
「予算がマンチェスター・ユナイテッド(マンU)の10分の1にも及ばない南米王者が、クラブワールドカップ(W杯)決勝で勝つチャンスというのは、極めて低いと言わざるを得ない。資金力は試合にも影響するからだ」

 実際、21日に横浜で行われたクラブW杯決勝で、エクアドルのリガ・デ・キトは最後まで1点を追いつくことができなかった。クリスティアーノ・ロナウドは、昨季のようなプレーの質をいまだ取り戻せていない状態。またこの日、DFネマニャ・ビディッチの退場で、リガ・デ・キトは約40分間を1人多い状態で戦った。にもかかわらず、南米チャンピオンがマンUに勝利するには十分ではなかったのだ。

 マンUとそのほかの参加チームとの差は、それほどまでに大きかった。決勝に進んだリガ・デ・キトは、才能溢れるアルゼンチン人MFのダミアン・アレハンドロ・マンソが2度、素晴らしく正確なミドルシュートを放ったが、いずれもマンUのベテランGKエドウィン・ファン・デル・サールに片手1本で阻まれた。

さながら“世界選抜”の欧州クラブ

 リガ・デ・キトを率いてクラブW杯を戦ったバウサは、かつて同胞のカルロス・ビアンチが危惧(きぐ)していたことと同様のコメントを残した。それは、FIFA(国際サッカー連盟)が近い将来、導入しようとしている「6+5ルール」にまつわる問題である。すなわち、チームのスタメンのうち、外国籍の選手を5人までに制限し、自国の選手を増やそうというものだ。ただ、このルールはEU(欧州連合)の法律に抵触する恐れがあるため、ヨーロッパでは反対論も根強く残る。

 ビアンチはボカ・ジュニアーズの監督時代にトヨタカップ(当時)で来日していた際、ある欧州のビッグチームについて語ったことがある。
「どの国のチームと戦っているのか分からない。あまりにいろいろな国籍の選手が多くて、分類することなど不可能だ」

 イングランド対エクアドルといえば、2006年W杯の決勝トーナメント1回戦が思い出される。この時、イングランドは60分にデイビッド・ベッカムのFKが直接決まり、1−0でエクアドルを下したのだった。マンUはひょっとすると、イングランド代表よりも強いと言えるだろう。多くの各国代表の主力選手が勢ぞろいしているのだから。リガ・デ・キトはそんな“世界選抜”に戦いを挑み、果敢に戦った。

 クラブW杯については、かつての欧州チャンピオンと南米王者による一発勝負から、現在の各大陸王者が集うフォーマットに変わった当初から、大きな議論が続いている。欧州と南米の差はまだ小さなもので、プロとアマチュアクラブが混在する状況下で、果たしてサッカーはスポーツとして成立しているのかという問題である。論理的に考えて、経済的に潤ったチームが強いのは常。もちろん番狂わせは存在するが、最終的には金の力がものをいうのだ。

今後の課題と解決策

 もちろん、マンUは今大会で自らの責任を果たし、約束通り世界一の称号を手にした。それこそ負けるようなことがあれば、欧州チャンピオンの名前に泥を塗りかねない。準決勝でのガンバ大阪戦では、驚くほど好プレーを見せたアジア王者を前にして、多少手こずったのは事実だ。だが1点を返されて2−1となった時点で、このイングランドのビッグクラブは一瞬本気を出した。途中出場のルーニーがすぐさま2ゴールを決めるなど、わずか5分足らずで3点を連取し、5−1としたのだ。その後、G大阪の反撃に遭い、最終スコアは3−5となったが。

 G大阪との3位決定戦後の会見で、パチューカのエンリケ・メサ監督は、欧州と南米代表だけ試合数が少ないことに対して疑問を呈した。この2チームはシードされているため、1試合勝てば決勝に進出できる。どのチームも同じ試合数にすべきだと、メキシコの指揮官はそう主張した。もちろん正論である。だが、いまだ欧州と南米のチーム以外が決勝に進出したことがない状況で、現実的な方法でないことも事実だ。今大会のベスト4――マンU、リガ・デ・キト、G大阪、パチューカの間には、純然たるクオリティーの差があった。もし3試合戦うことになるならば、2大伝統大陸はかつてのトヨタカップ方式でいいと言うだろう。

 FIFAはこの件に関して今後、解決策を見つけるべきである。クラブW杯は次回の2009年から2年間、UAE(アラブ首長国連邦)に場所を移す。大会として、もう少し質を上げなければならない。例えば、各大陸からの出場チーム数をもう少し増やす。W杯のように、大陸の競争力に応じて出場数を変えることも一案だろう。開催期間の問題はあるだろうが、大会のクオリティーは今よりはるかに保たれるはずだ。大会の価値が上がり、テレビの放映権料などももっと入るようになれば、クラブW杯を軽視しがちなヨーロッパのクラブも本腰を入れるに違いない。また、開催国のローテーションの問題もある。開催能力は必要だが、国によっては大会を招致することで、サッカーのメジャー化への助けになるかもしれない。

 いずれにしても、クラブW杯は今大会で一区切りとなった。マンUの強さは際立っていたが、リガ・デ・キトやG大阪は極めていい印象を残したと言えるだろう。一方、4位となったパチューカは、アフリカ王者のエトワール・サヘルに初戦敗退した昨年ほどではないにしても、今大会もフラストレーションが溜まったのではないか。
 クラブW杯は来年はUAEの地で、新たなる道を進むこととなった。今後はさらに、人々の興味をかき立てるすべを再考することが必要となる。

<了>
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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