ガンバ大阪からJリーグへ=準決勝 G大阪 3−5 マンU

宇都宮徹壱

4分間で3失点、それでもあきらめなかったガンバ

G大阪はボール保持率でマンUを上回るなど中盤の攻防で互角の競り合いを見せた 【Getty Images】

 後半もガンバは、欧州王者に臆することなく戦い続け、時間帯によっては敵陣でボールを回して何度かチャンスも作った。後半19分には、ゴールから25メートルの距離でFKのチャンス。これを遠藤が直接狙うと、GKファン・デル・サールがパンチングで防ぐ。すぐさま播戸が拾って右足を振り抜くが、残念、弾道はわずかにバーを越えた。

 後半29分、テベスに代わってルーニー登場。ひときわ大きい拍手がスタジアムを包んだ次の瞬間、唐突にガンバのゴールが決まる。深いポジションから遠藤が放った長い縦パスに、橋本英郎が走り込んでワンタッチで折り返す。これを中央で待ち構えていた山崎が右足で流し込み、ついにファン・デル・サールが立ちはだかるゴールを陥れる。「ACL男」山崎のゴールは、マンUに1点差と迫るゴールであると同時に、クラブW杯セミファイナルで欧州王者が初失点を喫した、まさに歴史的ゴールでもあった。

 だが、この山崎のゴールは結果として、それまで7割の力で流していたマンUに「手加減不要」のゴーサインを与えることとなる。フレッチャー(後半23分にスコールズと交代)からの浮いた縦パスに、ルーニーが巧みに胸トラップで落すと、そのまま中澤聡太との競り合いを制して左足でゴール。山崎のゴールから1分も経たないうちに、すぐさまマンUがつき離しにかかる。これで再び2点差。
 そして後半33分には、左サイドを上がってきたエブラのクロスを、今度はフレッチャーが自ら頭で決めて追加点。さらにその1分後には、ナニ、ギグスとつないで、最後はまたしてもルーニーがネットを揺らす。後半のわずか4分間で3ゴール。スコアは1−5。火だるまとなったガンバに、もはや抵抗する余力は残っていないかに思われた。

 だが、まだ戦いは終わってはいなかった。ここからガンバは、驚異的な粘りを見せるのである。反撃に出たアジア王者は、安田理大の左からのクロスがペナルティーエリアでのネビルのハンドを誘い、PKをゲット。40分、遠藤が左隅に転がしたボールは、そのままファン・デル・サールの指先をすり抜けていく。これで2−5となった。
 残り5分で3点差。常識的に考えて、ガンバがマンUを逆転する可能性は、極めて低いと言わざるを得ない。だが、最初の失点時以上に、マンUの選手たちは本気モードになっていた。最後は自分たちのゴールでしめくくらなければならない――そんな、意地というよりも、むしろ焦燥に近いものが、彼らのプレーからひしひしと伝わってくる。

 それでも、終盤はガンバの勢いが勝っていた。そして、ロスタイム3分と表示された直後、この試合最後のゴールが生まれる。山口の縦パスをルーカスが右に流し、ハーフウエーラインからフリーで走り込んできた橋本が、右足ダイレクトでネットを突き刺す。怒りにまかせてポストを蹴るファン・デル・サール。ガンバが、そしてJクラブが、あのマンUから3ゴールを挙げるなんて、誰が戦前に想像できただろうか。
 最後にC・ロナウドのFKをGK藤ヶ谷陽介ががっちりキャッチして、終了のホイッスル。合計8ゴールが飛び出し、観る者の魂を揺さぶり続けたゲームは、こうして終わった。

大会を通してJリーグ全体がステップアップしていく?

「3点取れたということで、ガンバのスタイルは多少は示せたと思いますが、全体的には残念という気がします。可能性が少ない中でも、そこ(勝利)を追求した戦いの中で簡単に点を失ったことは、非常に残念です」

 試合後の会見に臨んだ西野監督の表情からは、喜びどころか「どうにも納得できない」という思いがありありと浮かんでいる。欧州王者を慌てさせたとはいえ、この人の理想は、まだまだ高いところにあるのだろうか。

 もっとも試合内容自体が、いささか大味だった感は否めない。合計8ゴールも、合計シュート数41(ガンバ23、マンU18)も、いずれも大会最多記録。両者とも「リスク覚悟で攻め合った」といえば聞こえがいいが、とりわけマンU守備陣の集中力の欠如は尋常でなく、キトとの決勝に大いに不安を残すものとなった。多分に余力を残したマンU相手に3得点というのは、少なくとも指揮官にとっては手放しで喜べるものではなかったようだ。それでも、この戦いから得たものも少なくなかった。序盤、機能していた戦術について、西野監督はこのように説明する。

「高いラインで設定しながら、最終ラインも怖がらずにプッシュアップしていく。ボールが奪えれば、早い段階でシンプルにダイレクトで、それができなければ(中略)しっかりボールを動かして両サイドを使う」

 この日のガンバの戦い方は、他のJクラブでも見られる戦術であり、さらにいえば日本代表のスタイルにも重なる部分が少なくない。日本サッカーのスタイルは、欧州トップレベルのサッカーに対して、通用する余地が十分あるのではないか。
 もちろん、この仮説を検証するには、さらなるデータ収集が必要だ。それはすなわち、浦和レッズやガンバに続いて、今後もJクラブがこの大会に出場することを意味する。

「こういう(マンUのような)チームとやらないと、自分たちは変わらない」とキャプテン山口が語ったように、クラブW杯に出場することは、確かにクラブ自身にとって大きな財産となる。だが大会で得た経験値は、クラブのみならず、その国のリーグや協会にまでフィードバックさせることは、十分に可能であろう。
 昨年、浦和は初めて世界への扉を開き、ACミランとの真剣勝負によって、世界との彼我の差を提示して見せた。今年、ガンバはさらに一歩踏み込んで、日本のスタイルがある程度は通用することを実証して見せた。Jクラブが2大会連続で出場することで“点”と“点”がつながり“線”になったのである。来年以降、新たなJクラブがこの大会に出場すれば、さらに“点”が増えて“面”になる。そうやってJクラブがこの大会で経験値を積むことで、やがてそれはJリーグ全体のステップアップへとつながっていくのではないか――。今日の劇的な試合と、西野監督の渋い表情を交互に思い出しながら、そんなことを今、夢想している。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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