ガンバ大阪からJリーグへ=準決勝 G大阪 3−5 マンU

宇都宮徹壱

ガンバとマンUに見るパースペクティブの逆転

途中出場で2ゴールを決めるなど欧州王者の実力を見せつけたマンUのルーニー(右) 【Getty Images】

 前半7分、クリスティアーノがドリブルで持ち込んで、中央遠めからミドルシュートを放つ。ボールはゴール右隅に突き刺さり、アデレードが先制した。準決勝に先立って行われた、アルアハリ(エジプト)対アデレード(オーストラリア)による5位決定戦。結局、この序盤の1点が決勝点となった。
 この日のアデレードは、準々決勝のガンバ大阪戦と同様、高さや強さに依存しない、パスをしっかりつなぐサッカーを披露している。決して技術が高いわけではないが、やろうとしていることが明確で、蹴り合いがメーンだった初戦のワイタケレ戦に比べれば、はるかに洗練された印象である。大会を通して見ていると、短期間でチームが成長・変化する様子を実感できて、実に興味深い。今大会、あまりインパクトを残すことのなかったアデレードだが、きっと多くの“お土産”を持って、祖国へ帰っていくのだろう。そして来季のACL(アジアチャンピオンズリーグ)では、また一回り大きくなって、Jクラブに挑んでくるような気がしてならない。

 FIFAクラブワールドカップ(W杯)準決勝2日目は、東京・国立競技場から横浜国際総合競技場に舞台を移して行われた。この日のカードはガンバ大阪対マンチェスター・ユナイテッド(マンU)。アジアの頂点に輝いたJクラブが、欧州王者にして世界最高峰リーグを制した伝統あるクラブに挑戦するという、注目の一戦である。
 両チームの選手紹介がアナウンスされる。やっぱりガンバに比べて、マンUの方が拍手と声援が大きい。とはいえ、遠藤保仁よりもパク・チソン(この日はベンチ)の方に、より多くの観客が反応するというのは、やはり違和感を覚えてしまう。

 日本という、情報が極限まで発達した国に暮らしていると、時折こうしたパースペクティブ(遠近法)が逆転した、何とも奇妙な状況に出くわすことがある。
 近くのものは大きく、遠くのものは小さく見える。これが本来あるべきパースペクティブである。ところが、これをこの日の試合に置き換えてみると、わが国で投下されている情報量は、国内のクラブであるガンバよりも、遠く離れたマンUの方が圧倒的に多いのが実情。この傾向は、NHKがJリーグ中継を減らしてイングランド・プレミアリーグを放映するようになってから、さらに顕著なものとなっている。今年に関して言えば、いくらガンバのACL優勝があったといっても、昨シーズンにプレミアリーグ連覇を決めたマンUの方が、一般視聴者にとっては、より身近なものに感じられたはずだ。

 世界中にファンを持つグローバルなビッグクラブと、地域密着によって支えられている関西のローカルクラブによる一戦。試合前の歓声の大きさでは、明らかに前者が後者を圧倒していた。

セットプレー2発で力の差を見せつけるマンU

 これが初戦となるマンUは、ルーニーをベンチに置き、ベルバトフはけがの影響もありベンチにも入っていない。だが、それ以外は、かなりベストに近いメンバーだ。ギグスがいる、ギャリー・ネビルがいる、ビディッチがいる、ファン・デル・サールがいる、そしてバロンドール(世界年間最優秀選手)を受賞したばかりのクリスティアーノ・ロナウドがいる。

 対するガンバは、アデレード戦で古傷を悪化させた二川孝広が何とかベンチ入りしたものの、厳しい陣容であることに変わりはなかった。西野朗監督は、ACLで5ゴールを挙げた山崎雅人をワントップ気味に置き、その背後にルーカスと播戸竜二を並べ、さらに遠藤をボランチの位置に下げる決断を下す。プレッシャーにさらされない位置でプレーさせることで「ヤット(遠藤)の展開力に期待した」(西野監督)という狙いがあったようだが、結果として、この起用は見事にはまることとなる。

 序盤のガンバは、緊張感を振りほどくかのように積極的にシュートを打ってくる。試合の入り方としては悪くない。前半12分にはカウンターから、播戸がファン・デル・サールと1対1になるビッグチャンスが到来。しかし、マンUの守護神は冷静に足元でシュートをはじき返した。結局、前半でガンバにゴールの香りを感じたのは、このシーンのみ。マンUは徐々にボール支配率を高めていきながら、次第に攻勢を強めていく。
 そして前半28分、ついに均衡が破れた。ギグスからのCKに、センターバックのビディッチが高さを生かしたヘディングシュートで、豪快にガンバゴールを揺さぶる。山口智もセルビア人DFを背負いながら頑張ったのだが、身長差プラス跳躍力で30センチくらいの差はあっただろうか。要するに、どうにもならない失点であった。

 その後、マンUは効果的なサイドチェンジを多用し、右からC・ロナウドが、左からナニが、迫力あるドリブル突破やミリ単位の正確なクロスを仕掛けてくる。ガンバのディフェンス陣は、文字通り右往左往。反撃に出る回数も激減する。しかし印象として、マンUが決して全力を出しているように見えないのが憎らしい。プレッシャーにしても、スピードにしても、球際での攻防にしても、ぜいぜい7割くらいだろう。意外とミスも多く、付け入るすきはありそうだ。何かの拍子で同点に持ち込めれば、さらに試合は白熱するのだが。

 やがて前半のロスタイムが1分と表示される。このまま失点1でハーフタイムを迎えられれば上出来だ――。そう思っていたら、CKからまたしても失点。ギグスのキックから、今度はC・ロナウドが明神智和のマークを振り切ってヘディングで決めた。これで0−2。ガンバの士気をくじくために、わざわざロスタイムまで待って決めたのではないか。そんな邪推(じゃすい)さえしたくなるような鮮やかな追加点が決まり、前半は終了する。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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