苦しくともロッテはファンとともに戦う=2008年12球団を振り返る

永田遼太郎

序盤は「YFK」の離脱、故障者の続出に苦しむ

「YFK」(薮田安彦、藤田宗一、小林雅英)の他球団への移籍。千葉ロッテの2008年は少なからずこれが影響した。
 開幕から交流戦終了までの約3カ月間、“新・勝利の方程式”のシステム構築に、払った犠牲は41敗(31勝)。この出遅れが結果的に最後まで尾を引いた。今季からリリーフ陣の軸になることを求められた荻野忠寛、川崎雄介ら若きブルペン陣は健闘した。荻野は5勝5敗30セーブで防御率2.45。川崎はチーム最多の65試合に登板し、防御率3.00と、数字的には「YFK」と同じか、それ以上の結果を残している。しかし、不慣れな配置転換がチーム内に混乱をもたらしたのは明らか。今季、終盤3イニングで敗れたゲームは16を数えるが、半分の8敗をリーグ序盤の5月に喫している。

 この5月、チームは7勝17敗と大きく負け越した。主力に故障者が相次ぎ、特に守備の要であるはずの里崎智也、橋本将、田中雅彦ら3捕手がそろって同じ時期に戦列を離れたのは痛かった。
 05年の優勝時、リーグトップだったチーム防御率(3.21)は、わずか4年でリーグ最下位(4.14)まで転落。中でも開幕投手を任された小林宏之の不振は予想外で、昨季は13勝3敗、防御率2.69だったのが、今季は5勝12敗、防御率5.02まで落ち込み、とうとう1年間、本来の投球を見ることができなかった。
 小林ほどではないが、成瀬善久も昨季の16勝から今季は8勝と勝ち星が半分に減った。防御率こそ3.23とまずまずだが、絶対的な存在だった昨季を思えば、少し物足りない印象が残る。どちらも前半戦のつまづきが最後まで尾を引いた形だ。

バレンタイン監督の起用に応えて若手が活躍

 しかし、そうしたマイナスイメージばかりの1年だったかと言えば、決してそうではない。
 主力が不振に陥ったり、故障者が相次ぐとボビー・バレンタイン監督は積極的に若手を登用した。4月下旬にはルーキー・唐川侑己を先発で起用。1完投を含む、いきなりの3連勝で苦しい台所を救った。さらに2年目の大嶺祐太も、7月にダルビッシュ有との投げ合いを制するなど2勝、こちらも大器の片りんを見せた。また、不振から一時は中継ぎに回っていた久保康友も、後半は先発に復帰して安定した数字を残した。
 中継ぎではルーキーの伊藤義弘、2年目の松本幸大らが活躍。ともに社会人を経験してからのプロ入りで、決して若くないが、新たな戦力の出現に首脳陣も喜んだことだろう。

 チームも壊滅状態だった投手陣が整備されたことによって徐々に巻き返した。7月に16勝9敗と大きく勝ち越すと、8月は10勝9敗、9・10月は15勝9敗と、交流戦以降は42勝29敗1分け。最大で10あった借金も返済し、終わってみれば貯金3。ゲーム終盤での逆転負けもなくなり、むしろ逆転勝ちを拾う千葉ロッテ本来の野球が戻った。

 野手では大松尚逸、根元俊一らが大ブレーク。7月に月間MVPを受賞した大松はチームトップの24本塁打、91打点の活躍。成績以上に、ここ一番の一打で記憶に残るプレーを数多く見せた。一方の根元も、一時は打率が3割4分を超え、陰の首位打者と称された。終盤戦の負傷で惜しくも規定打席に届かなかったが、西岡剛、今江敏晃らと顔をそろえる若い内野陣は魅力たっぷり。ことし日本一に輝いた埼玉西武の内野陣と比べても、引けを取らない選手がそろった。

CS進出は逃しても、ファンとの信頼関係は変わらず

 最終的に3位・北海道日本ハムとの差はわずか0.5ゲーム差だった。「どこかの試合で勝つか、引き分けていれば……」とチームの内外から声が出るほど紙一重の差だ。
 だからこそ、9月7日に好調だった今江敏晃を死球による負傷で欠いた影響は大きかった。今江の代役としてサードへ入ったオーティズは大事なところで守備のミスを連発。ファームから呼び寄せられた細谷圭も、今江の穴を埋めるには、まだ荷が重かった。
 9月28日、北海道日本ハムとの2連戦で先勝し、クライマックス・シリーズ(CS)進出まであと一歩まで迫った千葉ロッテだったが、翌29日はダルビッシュの前に打線が沈黙。気迫の投球で好投していた小林宏之を見殺しにしてしまった。

 CS進出が絶たれた10月1日。8点のビハインドを許し、ロッテベンチは気持ちが折れそうな状態だった。そんなとき、選手にふたたび立ち上がる勇気を与えたのは、“26番目の戦士”と呼ばれるファンの魂の叫び。「俺たちの誇り」だった。
 その直後に飛び出した橋本、サブローの連続本塁打。最後まで勝利を信じるファンに選手は最高のパフォーマンスで応えた。これこそ両者の信頼が形となって表れた瞬間だった。

 シーズン終了後、サブロー、橋本の二人は、FAでの他球団移籍をにおわせた。ほかに清水直行、小野晋吾らも他球団への移籍を検討。なかでも「かつてからの夢だった」メジャー挑戦を表明していたサブローの移籍はほぼ間違いないと多方面で言われていた。しかし、結果はそろって来季の残留を表明。
「(メジャー)挑戦も夢だけど、千葉ロッテでプレーすることも、僕にとっては大きな夢。このチームで来季は最高のシーズンを送りたい」野球人としての大望を先延ばしにしてまで、サブローは自らが育った千葉ロッテの優勝にこだわった。

「最終戦で『(チームに)残ってくれ』という応援ボードを見かけてうれしかった。このファンのために来年、頑張りたい。そして野球人として尊敬するバレンタイン監督をもう一度胴上げしたい」橋本もサブローと同じ気持ちだった。
 前年に、あと一歩でプレーオフ(現在のCS)進出を逃したのは、くしくも前回優勝時の05年と重なる。これも何かの予兆ではないか。この1年でチームの結束をより堅固なものにした千葉ロッテ。来季は4年ぶりの日本一、そしてアジアチャンピオンをつかむ。

<了>
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著者プロフィール

1972年生まれ、茨城県出身。格闘技雑誌編集を経て、2004年からフリーとして活動開始。同時に、学生時代の野球経験を生かし野球ライターとしての活動もスタート。中学生からプロに至るまで幅広い範囲で野球取材を行っている。少年時代からのパ・リーグびいきで、現在は千葉ロッテマリーンズと西武ライオンズを主に取材。『ホームラン』(日本スポーツ出版社)、『スポルティーバ』(集英社)などの雑誌媒体の他、マリーンズオフィシャル携帯サイトやファンクラブ会報誌などにも寄稿している。

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