国内スポーツメーカーのグローバル戦略=世界陸上の舞台裏vol.4
有力選手獲得へのアプローチ
日本を含め6カ国の公式ユニホームを製作しているミズノ。世界陸上は海外にブランド力をアピールする絶好の機会だ 【スポーツナビ】
それから16年後、再び日本に戻ってきた世界陸上で、IAAF(世界陸上競技連盟)オフィシャルパートナーになったミズノは、世界でのブランド力アップを目指して積極的な活動を行っている。
世界での認知度を上げるために重要なことの一つが、有力選手に自社のシューズを使用してもらうことである。今大会の日本選手では、自社選手である末續慎吾、室伏広治、内藤真人らがそれぞれ特注のシューズを履いて出場している。海外選手では、女子1万mで連覇を達成したティルネッシュ・ディババ、女子5000mの世界記録保持者メセレト・デファー(ともにエチオピア)、110m障害のテレンス・トランメル(米国)ら、世界の超一流選手の名前が挙げられる。
ミズノのスポーツプロモーション部に所属する濱本良一氏も「やはりシューズを買うとき、お客さんが選ぶ理由に、あの選手が履いているからというのはありますよね」と、有力選手獲得の重要性を強調する。
新たな選手獲得のために、今大会のミズノは、オフィシャルパートナーの権利を利用し、選手が宿泊しているホテル内に選手サポートを目的としたサービスセンターを開設している。
「まず来てもらうことが大事なんです。選手と直接コミュニケーションが取れる機会はあまりないですから」(濱本氏)という理由から、より多くの選手に来てもらえるよう、選手村のフードコートに隣接して設置しており、食事の行き返りなどで気軽に立ち寄ってくつろいでもらうようにとアピールをしている。
大会期間中トータルでは延べ1500〜2000人の来場を見込んでおり、中には3回、4回と来る選手や、1回来て気に入ったとして自国の別の選手を連れてくる選手もいるという。
そこでのコミュニケーションを通し、選手の年齢、記録、ビジュアル、筋肉のつき方や質などを考慮し、まだ契約メーカーがなくて今後の活躍が期待できる選手などには、ミズノ製品を使用してもらえるようアプローチしているのだ。
グローバル展開の狙い
競技場の周辺にあるミズノオフィシャルショップ。海外からのお客さんも目に付く 【スポーツナビ】
海外展開に力を入れる同社の狙いを、濱本氏はこう説明する。
「まず、シューズを中心とした展開をしたいというのがあります。シューズを買っていただければ、ウエアも同じブランドでそろえてもらいやすいですし。ただ、国内市場でシューズのシェアを大きく伸ばすのは難しいんです。でも、海外では日本の企業はまだまだステップアップができる。そこで、海外展開へ、となりました」
海外シェア拡大を狙うミズノにとって、陸上人気が高い欧州ヘルシンキ大会でオフィシャルパートナーとしてブランド名を露出することは、知名度アップにはもってこい。その後には地元大阪で世界陸上がある。さらに06年には、五輪を控える北京での世界ジュニアも含まれる。今回のスポンサー期間は、ミズノの戦略にピッタリと合致するものだった。
実際、こういった大会の影響からか、欧州や中国におけるミズノの売り上げは伸びているようだ。
濱本氏は、「地元大阪での大会をいい機会にしたいですね。これは、個人的な意見なんですが、大阪でいい流れを作ってそれを来年の北京五輪へのはずみにしてほしいです」と、今後の展開への意気込みを語る。
さらなる拡販に向けた努力
スポンサービレッジ内のブースには歴代のスパイク写真を展示。ここで行われるパーティーから新たなビジネス展開も 【スポーツナビ】
競技場周辺には、各企業が来客を招待して自社PRをするための「スポンサービレッジ」と呼ばれるスペースがある。昼間は休憩所として、夜にはそこに多くのお得意様や来客がつめかけ、パーティーなどが行われている。
ミズノは今回、海外代理店に向けて、世界陸上観戦にミズノ本社や観光名所めぐりなども合わせたツアーを行っている。そうして来場した流通関係者とコミュニケーションをとって、代理店との連帯感を強めるとともに、さらなる販売網の拡大をしていこうという狙いなのである。
「非常に喜んでいただいて、熱心に商品のデザインや質について質問を受けた経緯もあります」(濱本氏)と、そこから実際の交渉に発展するケースもあるという。
ミズノは今大会では、約1万着のボランティアウエアとキャップ、それにバッグ、シューズなどを無償提供している。その費用に、広告費なども考えると、オフィシャルパートナーになるために相当な額が必要なことは容易に想像できる。しかし、有力選手や代理人、流通業者が一堂に会する世界陸上でのマーケティング展開は、それだけのことをしてでも得る価値がある。だから、今大会にかける彼らの意気込みは半端ではない。大阪から、世界のミズノへ――。
<了>
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