リーグ序盤のヒーローは「海の英雄たち」=「ポルトガルサッカーの光と影」

市之瀬敦

補強の成功と精神面での充実

スポルティングとのポルトガル杯でゴールを決めたフッキ。ポルトの攻撃のけん引役となるか 【Photo:ロイター/アフロ】

 昨シーズンを14位で終え、何とか降格を免れたチームが、今季まだ序盤とはいえ、首位を快走するとは誰も予想できなかったのではないか。レイソエスにとって、開幕前の目標は“残留”でしかありえず、“あわよくばUEFA杯出場”という望みさえ非現実的であった。しかし、ふたを開けてみればレイソエスは第9節を終えて、7勝1分け1敗。勝ち点「22」を積み上げて、ポルトガルリーグのトップに位置している。
 レイソエスの快進撃を、対戦相手に恵まれただけのフロックなどと考えてはいけない。何しろポルトとスポルティングを敵地で破り(それぞれ3−2、1−0)、ベンフィカとはホームで引き分けている(1−1)。ここまでの成績を見るだけなら、堂々たる優勝候補の筆頭と言っても過言ではない。

 好調の秘密は、まずブラガ、ウェスレイらの補強がうまくいったことが挙げられるだろう。しかし、それ以上に特筆すべきは、攻撃のバリエーションが豊富なことだ。レイソエスの得点シーンを見ると、セットプレーあり、カウンター攻撃あり、ミドルレンジからのシュートありで、相手の守備陣に的を絞らせない。もちろん得点ランキング首位タイのウェスレイが攻撃の要であることは言うまでもないが。
 いや、攻撃を褒めるだけでは不十分。守備だって悪くない。ベトはリーグを代表するゴールキーパーだし、エルビスとジョエルのセンターバックも堅実である。そして中盤にはボールをワイドに展開する能力を持つブルーノ・シーナがいる。

 さらに精神面での充実も見逃してはならない。なにしろ、レイソエスはアウエーの5試合を全勝しているのである。ポルトのドラゴン・スタジアムであれ、スポルティングのアルバラーデ・スタジアムであれ、彼らは勝利を信じて戦っているに違いない。もちろん、アウエーではカウンター戦術がうまく機能しているからこその勝利だろうが、強い信念がなければ、それは不可能である。格上のクラブの本拠地に乗り込んでもおじけづかない――こうしたチームが増えれば、ポルトガルリーグのマンネリも打破されるのではないか。

いつかは終わる夢だけれど……

 今季レイソエスを指揮する監督のジョゼ・モタは、2000−01シーズン、1999年から指揮してきた昇格組のパッソス・ダ・フェレイラを率いて、初めてポルトガルリーグの1部に登場した。そして、その年いきなりパッソスを9位まで導き、脚光を浴びたのだ。この監督、8年前のシーズンでも、スポルティングとベンフィカをともに敵地で破るという“大物食い”を演じている。
 いずれはビッグ3(FCポルト、ベンフィカ、スポルティング)の監督になりたいという野心を隠さないモタ監督は、2000年のパッソスと今年のレイソエスが一緒になれば、リーグ優勝も狙えると口にしている。チームの成績を見れば、けっして大ぼら吹きとも言えまい。たとえ大ぼらに聞こえたとしても、こんな前向きな言葉を発しながら選手たちを鼓舞しているのだろう。

 現在、ポルトガルのサッカーファンの関心事の1つは、いつまでレイソエスの快進撃が続くのか、である。このまま優勝すると信じる者はほとんどいない。なぜなら、年が明け、冬の移籍市場がオープンすれば、言葉が悪いが、レイソエスも選手の“草刈り場”のようになるからである。
 ブラジル人FWウェスレイも、「12月まではレイソエスに残るが、その後のことは分からない」と明言している(UAE=アラブ首長国連邦=のアルワーダが有力な移籍先との情報がある)。実際、21日のリオ・アベ戦には、ポルトガル国内のクラブだけでなく、スペイン、イタリア、フランス、イングランドのクラブのスカウトが視察に来ていたという。残念ながら、シーズン後半の戦力ダウンは免れまい。

 それでも、地元サポーターたちは悲観的ではない。レイソエスがこのまま首位をキープし、優勝できないことは彼らが誰よりもよく分かっているのだ。むしろ彼らは、予想を大きく上回る順位につけている“現在”を楽しむことに専念している。ポルトガル国歌の出だしのフレーズと同じ「海の英雄たち」と呼ばれるレイソエス・イレブンの活躍を、力みすぎることなく応援するつもりのようである。
 したがって、レイソエスのサポーターたちは、来年6月に1部残留が決まっていれば、それだけでも十分満足するに違いない。もしUEFA杯の出場権を獲得するようなことになれば、町をあげての大騒ぎとなるのだろう。
 なお、12月14日には、ポルトガル杯5回戦でベンフィカを迎え撃つことも決まっている。こちらもポルトガル中が注目する熱い一戦となりそうだ。

移行期にある3大クラブ

 さて、そのレイソエスと首位争いを続ける2位のベンフィカだが、キケ・フローレス監督の下でチーム改革に取り組んでいる。昨季は無冠に終わり、リーグ戦も4位だったことを思えば、第9節を終わり、首位レイソエスと勝ち点「1」差、そしてライバルのスポルティングとFCポルト両チームの上を行っていることは、序盤の戦いとしては評価していいのではないかと思う。

 一方、ポルトは今夏ボジングワやクアレスマが抜けた穴がまだ完全には埋まり切っておらず、メンバーが固定できていない。時にディフェンスが不安定に、時に攻撃陣が力不足に見えるのはそのせいだろう。“司令官”ことルチョ・ゴンサレスが相変わらず健在なのは心強いが、エースのリサンドロ・ロペスが昨季より機能していないことを思えば、新加入の元東京ヴェルディのフッキ(ポルトガルではウルクと発音する)の爆発的な破壊力に頼りたくもなるものだ。チャンピオンズリーグ(CL)のゲームのため1試合消化が少ないとはいえ、暫定6位は“らしく”ない順位である。

 そして、スポルティングはCLでの戦いに集中しすぎたのか、リーグ戦では次第に調子を落としてきた。ポルトガル杯でもFCポルトの前にPK戦で屈し、早々に姿を消すことになった。開幕から間もないころは、ポルト、ベンフィカよりも上位につけていたのだが、現時点で4位というのは少し寂しい。
 規律違反を繰り返すモンテネグロ人シモン・ブクチェビッチの問題もあり、チーム内がごたごたしているようにも見える。戦力的には優勝してもおかしくないだけに、パウロ・ベント監督には采配(さいはい)以前の問題として、まずはチーム内をまとめてほしい。

 さて、今回のコラムでは触れることができなかったが、それぞれ3位と5位につけるという健闘を見せるマデイラ島のナシオナルとマリティモについては、特別の注意をもって今後もフォローしたい。また、ポルトガルサッカー界の古くて新しい深刻な問題、“給料の遅配”で苦しみながらも暫定9位につけるエストレラ・ダ・アマドーラの状況も、いつか報告したいと思う。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント