「エースに頼らない野球」で慶応が初優勝=明治神宮野球大会リポート

松倉雄太

さらなる可能性を感じさせた全国の逸材たち

 投打において、今大会最も注目された西条高の秋山は、バッティングで不振を極めた。
「県大会の時からずっと調子が悪かった。四国大会でホームランを打ったのはたまたまです」と振り返ったが、「自分のストレートが全国でも通用するとわかった。コントロールには自信があるので、冬にしっかりと練習したい」と投手としては手応えを感じていた。

 北海道を制した鵡川高も今大会2勝を挙げて4強に進出した。エースの西藤昭太(2年)は右の本格派で球質の重いタイプ。ただ、「全道大会の時から疲労がたまると、投げる時に腕が震える。投球に集中できなかった」と原因不明の症状にも悩まされていることを明らかにした。来春のセンバツでどのように変わってくるか、やや気がかりだ。それでも柳田恭平、石井克幸(ともに2年)の右腕2人が慶応戦で好投。佐藤茂富監督は「投手陣のレベルは過去のチームより高い」と自信を深めていた。

 4強以外で注目されたのは、光星学院高の下沖勇樹(2年)と清峰高(九州地区・長崎)の今村猛(2年)の2投手。共に最速146キロを誇る全国屈指の右腕である。特に下沖は今大会でも146キロを記録し、初めて彼の投球を見る観衆の度肝を抜いた。やや単調になる部分を直せば、さらに勝てる投手になるだろう。逆に今村は大会直前に、ウイルス性の風邪にかかり、腕がまったく振れていなかった。だが、今夏の甲子園での投球を思い起こせば、来春にどんな姿になっているかが楽しみである。

「秋の高校日本一」を純粋に決める大会に

 10地区の優勝校を招待するなど、毎年少しずつ改革を進めてきたこの大会。今年は大会日程を1日延長し、大学の部を含めた全試合を神宮球場で行うようにした。残念だったのは、2日目の雨の影響で1試合だけが第二球場に変更されたこと。結果として本球場で戦うことなく敗れた清峰高の吉田洸二監督は「(体調不良の)今村を先発にするかどうか迷ったが、第二球場に変更になり、何としても1つ勝って本球場でやりたいとの思いから今村を先発させた」と無念の表情。勝った西条高の秋山投手も「何で自分たちだけが第二球場になるのかという思いはあった。勝って本球場でもう1回試合をと思っていました」と話した。来年以降は少しの日程変更でも、すべてのチームが本球場で試合をできるように工夫をしてもらいたいものだ。

 もう一つ再考してもらいたいのが、センバツの「神宮大会枠」である。今大会では慶応高が優勝したので、センバツの神宮大会枠が関東・東京に与えられ、出場校が当初の6校から7校に増える。この枠の存在が、出場校に大きなプレッシャーとして圧し掛かっている。決勝では両チーム合わせて9つの失策が出た。決勝としてはふさわしくない試合だったかもしれないが、チームのためにはこういう試合を経験し、反省して次につなげていくことも必要だ。だが、神宮大会枠があることで、さまざまな憶測を呼んでしまう。この試合内容を、神宮大会枠にかけるボーダーラインのチームが見たらどう感じるか。単純に「秋の日本一」を懸けた大会ならば、選手はもっと伸び伸びと戦えるであろう。

 慶応高が新チーム最初の日本一になり、今年の公式戦は全て終了した。各チームが、秋の戦いを踏まえたうえでどのように冬を過ごすか。来春、逞しく成長した高校生たちを見たいものだ。

<了>

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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