世界新続出!チーム・ジャマイカ、強さの理由=陸上

及川彩子

北京五輪、男子4×100mで金メダルを受賞したチーム・ジャマイカ。左からN・カーター(1走)、U・ボルト(3走)、M・フラーター(2走)、A・パウエル(4走) 【Getty Images/アフロ】

 今夏の北京五輪、陸上短距離で「ジャマイカ旋風」を巻き起こしたチーム・ジャマイカ。短距離種目で得たメダル数は11個。新たなスプリント王国として、来年のベルリンで行われる世界選手権で再びの活躍を目指す。

サンダー・ボルトの時代到来

 北京でのウサイン・ボルトの活躍を一言で表現すると「人間離れ」していた。ほかのファイナリストたちの存在は、ボルトを引き立てるだけのためにあったといっても過言ではない。1種目目の100mでは、80mほどで勝利を確認すると右手で胸をたたき、両手を広げながら、フィニッシュラインを駆け抜けた。記録は自身の持つ世界記録を上回る9秒69(±0)。規格外の走りで観衆を沸かせた。

 2冠目の200mでは不滅の記録といわれたマイケル・ジョンソン(米国)の記録を0秒02破る19秒30の大記録を打ち立てた。2位を0秒66引き離す「大爆走」。ゴール後、グラウンドに大の字に寝転んで、喜びをかみしめた。あっさりと2冠を達成したように見えたが、本人はさまざまなプレッシャーと戦っていたのかもしれない。3冠目の4×100mでは、ジャマイカチームの3走として快走、チームの優勝、そして世界新記録の樹立に貢献した。

 陸上は個人種目だが、国際大会ではチーム内での勢いや流れが結果に大きく影響する。昨年の世界選手権大阪大会で米国チームがメダルを量産できたのは、個の力がチームに作用した結果だった。今回の北京では、ボルトが100mであげた大きな『のろし』をきっかけに、ジャマイカチームは、暑い北京で水を得た魚のように、生き生きと走り、跳んだ。
 既知の記者はボルトの活躍を『ボルト祭り』と表現していたが、その言葉通り、陸上の会場となった『鳥の巣』は連夜、ボルト&ジャマイカチームによってカーニバルが繰り広げられたのだ。

強さの秘けつは国内強化にあり

 ボルトの強さがずば抜けていたため、ほかのジャマイカ勢の印象が弱まった感もあったかもしれない。しかし、女性陣も100mはメダル独占、200mではベロニカ・キャンベル・ブラウンが五輪連覇を果たすなど大活躍を見せた。
 ジャマイカチームが今五輪で飛躍を見せた理由を見てみると、国内での選手強化が挙げられる。これまでジャマイカには選手を育てられる環境がなかった。そのため、高校時代に活躍した選手の多くが米国の大学から奨学金をもらい、留学するというケースがほとんどだった。200mのキャンベル・ブラウンや100m2位のスチュワートなどが、それにあたる。

 そのほか、より良い環境を求めて家族で米国に移住し、米国国籍を取得する選手も多い。1999年世界選手権セビリア大会の女子200mで金メダルのインガー・ミラー、北京400mで銅メダルのサーニャ・リチャーズなどがそうだ。
 
だが、パウエルやボルトといった選手達がジャマイカにとどまり、ジャマイカ人のコーチの下で練習することで、その流れが変わってきた。
 現在、ジャマイカには、ボルトが所属するレイサーズ・トラッククラブとパウエルや女子100m金メダルのシェリー・アン・フレイザーなどが属するMVPトラッククラブの二つが有力チームとして存在する。この二つのチームは、国内大会でもライバルチームとして戦っており、その相乗効果は大きい。
 男子100mの前世界記録保持者のパウエルは、米国留学を望んでいたが、高校3年次の国内大会(日本で言うインターハイ)で思うような成績を残せず、スカウトされなかったため、渋々ジャマイカに残ることになった。ジャマイカのキングストン工科大学で本格的に陸上を始めてから、頭角を現したパウエルを見て、同じチームで練習する多くの若い選手が刺激を受けたことは間違いない。パウエルが米国留学していたら、今のジャマイカの活躍はなかったかもしれない。世界で戦える選手が身近な場所にいるのは、若い選手にとって大きな意味を持つ。

ベルリンでの更なる飛躍を期待

 来年のベルリンでの世界選手権では、米国をはじめ、多くの国が『打倒ジャマイカ』を掲げてくるだろう。特に大阪で3冠を達成しながら、北京では無冠に終わったタイソン・ゲイ(米国)。同じく大阪3冠で北京では400×4リレーで金、個人種目の200mは銀に終わったアリソン・フィリックス(米国)を筆頭に、巻き返しを図ってくるだろう。個人種目はもちろんだが、米国は世界選手権でのリレー4種目制覇を狙ってくることは間違いない。北京で味わった屈辱は、ベルリンで……と多くの選手が胸に秘めて冬季練習を行っているはずだ。

 ベルリンでは、ボルトが北京に続き、世界大会3冠を達成するのか。また個人種目での世界記録更新に期待がかかる。ボルト自身は、「誰かに破られたら、世界記録更新を考えるけど、(世界記録が自分のものである限り)記録には執着しない」と話しているが、冬季練習が順調に積めれば、かなり期待できるだろう。

 また、男女100m、200mでは再び、ジャマイカと米国の対決が繰り広げられる。男子100m、200mでは米国チームは4選手を(大阪の優勝者は自動的に出場できるため)、女子100mはジャマイカが4選手、200mは米国が4選手出場する。両国ともメダル独占を狙ってくるに違いない。
  北京での好成績で旋風で勢いに乗るジャマイカが、ベルリンで再び旋風を起こすのか。今後の活躍に注目していきたい。

<了>
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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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