世界新続出!チーム・ジャマイカ、強さの理由=陸上
北京五輪、男子4×100mで金メダルを受賞したチーム・ジャマイカ。左からN・カーター(1走)、U・ボルト(3走)、M・フラーター(2走)、A・パウエル(4走) 【Getty Images/アフロ】
サンダー・ボルトの時代到来
2冠目の200mでは不滅の記録といわれたマイケル・ジョンソン(米国)の記録を0秒02破る19秒30の大記録を打ち立てた。2位を0秒66引き離す「大爆走」。ゴール後、グラウンドに大の字に寝転んで、喜びをかみしめた。あっさりと2冠を達成したように見えたが、本人はさまざまなプレッシャーと戦っていたのかもしれない。3冠目の4×100mでは、ジャマイカチームの3走として快走、チームの優勝、そして世界新記録の樹立に貢献した。
陸上は個人種目だが、国際大会ではチーム内での勢いや流れが結果に大きく影響する。昨年の世界選手権大阪大会で米国チームがメダルを量産できたのは、個の力がチームに作用した結果だった。今回の北京では、ボルトが100mであげた大きな『のろし』をきっかけに、ジャマイカチームは、暑い北京で水を得た魚のように、生き生きと走り、跳んだ。
既知の記者はボルトの活躍を『ボルト祭り』と表現していたが、その言葉通り、陸上の会場となった『鳥の巣』は連夜、ボルト&ジャマイカチームによってカーニバルが繰り広げられたのだ。
強さの秘けつは国内強化にあり
ジャマイカチームが今五輪で飛躍を見せた理由を見てみると、国内での選手強化が挙げられる。これまでジャマイカには選手を育てられる環境がなかった。そのため、高校時代に活躍した選手の多くが米国の大学から奨学金をもらい、留学するというケースがほとんどだった。200mのキャンベル・ブラウンや100m2位のスチュワートなどが、それにあたる。
そのほか、より良い環境を求めて家族で米国に移住し、米国国籍を取得する選手も多い。1999年世界選手権セビリア大会の女子200mで金メダルのインガー・ミラー、北京400mで銅メダルのサーニャ・リチャーズなどがそうだ。
だが、パウエルやボルトといった選手達がジャマイカにとどまり、ジャマイカ人のコーチの下で練習することで、その流れが変わってきた。
現在、ジャマイカには、ボルトが所属するレイサーズ・トラッククラブとパウエルや女子100m金メダルのシェリー・アン・フレイザーなどが属するMVPトラッククラブの二つが有力チームとして存在する。この二つのチームは、国内大会でもライバルチームとして戦っており、その相乗効果は大きい。
男子100mの前世界記録保持者のパウエルは、米国留学を望んでいたが、高校3年次の国内大会(日本で言うインターハイ)で思うような成績を残せず、スカウトされなかったため、渋々ジャマイカに残ることになった。ジャマイカのキングストン工科大学で本格的に陸上を始めてから、頭角を現したパウエルを見て、同じチームで練習する多くの若い選手が刺激を受けたことは間違いない。パウエルが米国留学していたら、今のジャマイカの活躍はなかったかもしれない。世界で戦える選手が身近な場所にいるのは、若い選手にとって大きな意味を持つ。
ベルリンでの更なる飛躍を期待
ベルリンでは、ボルトが北京に続き、世界大会3冠を達成するのか。また個人種目での世界記録更新に期待がかかる。ボルト自身は、「誰かに破られたら、世界記録更新を考えるけど、(世界記録が自分のものである限り)記録には執着しない」と話しているが、冬季練習が順調に積めれば、かなり期待できるだろう。
また、男女100m、200mでは再び、ジャマイカと米国の対決が繰り広げられる。男子100m、200mでは米国チームは4選手を(大阪の優勝者は自動的に出場できるため)、女子100mはジャマイカが4選手、200mは米国が4選手出場する。両国ともメダル独占を狙ってくるに違いない。
北京での好成績で旋風で勢いに乗るジャマイカが、ベルリンで再び旋風を起こすのか。今後の活躍に注目していきたい。
<了>
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