王監督と過ごした時間 イチローと城島が振り返る
驚いた!非通知電話に「ハイ、王です」
第1回ワールドベースボールクラシックの初代王者に輝いた日本代表の王監督(左)は笑顔でイチローの貢献を称える 【Photo:Getty Images/アフロ】
真っ先に頭をよぎったのは、「ちょっと覚悟はしていたので、まあ、(退任の瞬間が)来ちゃったな」。
春先から、今季が最後になるかもという話は聞いていた。その日を迎えての思いは、「それぞれある。一つだけの感情ではない」。福岡ソフトバンクホークスの王貞治監督との接点で思い浮かぶこと。そんな問いにイチローは、「WBC出場を決意したときにかけた電話」と言った。
「僕の電話、非通知でかかるようになっているんですけど、(王監督に)非通知で電話したんですよ。そしたら、『ハイ、王です』って出ましたからね。あり得ないでしょう。この人、すごいなあと思って。びっくりして、僕は度肝を抜かれたんですよ。そこにもう、王監督の人柄が完全に出てるでしょう」
そこまで一気に話したイチローだが、その勢いは止まらなかった。
「だから、ホームランの数だけじゃない。記録だけで“世界の王”と言われているんではない。人柄、器の大きさ、懐の深さというかね。まあ、そういうことが、“世界の王”と言わせているゆえんですよ」
王監督は白い人、僕は真っ白じゃない
「話している表情とか、よどみのない目。真っ直ぐ、この世界で突き進んでこられた雰囲気が、それだけで伝わってくる」
よどみのなさについては、イチローがあらためて力説した。
「僕はちょっと、よどんでる。真っ白じゃない。もちろん黒じゃないよ。グレーでもないけれども、グレーがかった白だよね。やっぱ、白い人には勝てない。黒い人とか、グレーの人とかには絶対勝つ自信があるけど。まあ、あり得ない存在ですよね。王監督があり得ないんですよ、恐らく」
先週、8年連続200安打を達成したときに、お祝いの電話をもらったそう。そのとき言われた言葉が「非通知と同じぐらい、度肝を抜かれた」。
イチロー、「あり得ない」と称賛の嵐
「アメリカという国は差別的、という言葉を王監督は使われなかったですけど、そういうニュアンス――まあ、白人至上主義というか、そういうのが残っていて、要は『その中で、日本人が誰もやったことのないことを打ち立てることというのは、想像以上に難しいことだ』って言ってもらったんですよ。そのとき、僕は本当に泣きそうになって、『この人、すげえ』と思って感動してね」
「普通、そこまでは想像できないんじゃないですか。テレビとか、メディアからの情報だけでは。本当に(メジャーの)中でやらないと、そういうことって分からない。すごいですよ。やっぱ、この人のためにやりたいって思うよね。まあ、宝物ですね。王監督と同じ空間で、時間を過ごさせてもらったことは」
そのときのイチローは、スター選手からサインボールをもらったときのような目をしていた。
「そもそも僕の存在を知ってもらっていることが、あり得ない。そして、電話をかけてもらうこともあり得ない。まあ、幸せもんですよ。王監督は、自分は幸せ者だと言われてましたけど、こっちが幸せ者ですよね」