女子車いすバスケの田久保郁美、初のパラ五輪で目指すもの=北京パラリンピック
「ディフェンス力の強化が中国戦に生きた」と語る田久保。決勝トーナメントへ向け、熱い戦いはまだまだ続く 【Photo:杉本哲大/アフロスポーツ】
「大丈夫、ちゃんと元に戻るよ」
そういう医師の言葉だけが頼りだった。
「なのに、ただ、歩けるようになっただけ。バスケができなくなるなんて、元に戻ったことになんか、ならないと思ってました」
1年遅れで別の高校に進学すると、誘われるままにバスケット部のマネジャーになった。が、バスケ部顧問の教師が、神奈川県内の車いすバスケチームのコーチを兼任。田久保に強く車いすバスケのプレーヤーへの道を勧めてくれ、高校3年生で初めて車いすバスケを始めたのだった。
単身赴任で男子車いすバスケチームに所属
「もちろん、単身赴任ですよ(笑)。私が代表選手としてやりたいことを、彼は本当に理解してくれてる」
会社勤めを辞め、仙台では時間を自由に使えるアルバイトに転身。宮城マックスの練習日以外でも、一人で自由に体育館で練習ができる環境を手に入れた。宮城マックスは、今年度の日本選手権の優勝チーム。レベルの高い男子選手と一緒に練習することで、パワーもスピードも男子並みにアップしてきた。
「でも、ゴールドカップの時、世界の強豪を相手に、自分のシュート力のなさをいやというほど痛感したんです。シュートの練習なら、一人でもできる。とくにミドルシュート。世界は簡単にカットインなんか、させてくれない。どんなシュートも、精度を上げていかないと」
初戦の相手、地元の中国にきん差で勝利
「すっごいアウエー。自分たちのリズム、ペースを作るのが、本当に大変でした」
試合は、前半終了時点で26−25と、わずかに1点差。第3クオーターで突き放すかに見えたが、中国も追いすがってくる。
「苦しい展開だったけど、それでもチーム全体がすごく強い気持ちをもって戦っているということがひしひしと感じられた。このチームだから大丈夫という信頼感がちゃんとありました」
「加油! 加油!」の大合唱がこだまするアリーナで、田久保は自分より大きな中国選手とマッチアップして押さえ込み、走って走ってシューターの網本麻里にボールをつないだ。そうして、日本は大事な初戦を49−46でもぎとった。
女子監督として、自身初のパラリンピックとなる岩佐監督が言う。
「女子であっても、マックスの連中を指導するのとまったく同じように、とにかく走るバスケ、堅いディフェンスから切り返していく攻撃、どんどんパスを回していく展開の速さを徹底的にやらせてきました。走ることだけは、どんな選手でもそこに没頭しながら、スピードアップしていくことができます。今日も、初戦ということで、チーム全体の動きはぎこちなかったけれど、走り負けしていなかったから、絶対に後半に自分たちの波が来ると信じることができた。焦りはありませんでした」
2年間、岩佐監督のもとで修行を積んできた田久保への信頼は、あつい。
「1対1のガチンコで絶対に負けないディフェンス力を強化してきた。それが、今日の中国戦で生きていました。だから、完全アウエーの中国相手に、最終的に競り勝つことができたと思っています」
ゴールドカップでは6位だった。初めての北京パラリンピックで田久保が目指すものは――。
「金メダル! それしか、考えてません」
勝ち星を重ねて、決勝トーナメントへ。まだまだ、戦いは続く。
<了>
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