ベスト4進出校の高い生還率=タジケンの高校野球観戦記

田尻賢誉

チームとして走塁への意識がどれだけあるか

スクイズができる状況をつくれる浦添商(写真は慶応戦の延長10回に勝ち越しスクイズを決めた上地俊) 【写真は共同】

 メジャーリーグ専門誌『スラッガー』7月号に興味深い記事が掲載されていた。出塁率を重視する独自の理論を持つビル・ジェームス氏による『ベースランニングを“数値化”する』という記事。盗塁の多い選手=いい走者というイメージで判断されている走塁を数値で表そうとするものだ。走塁は盗塁だけでなく、打球によって塁間をどう走るかが重要。判断力やコース取りの技術なども必要になってくる。今回はこのジェームス氏の記事を参考に、ベースランニングを数字で表してみたい。なお、ジェームス氏は一走者の走塁のうまさを表そうとしているが、高校野球では一人あたりのサンプル数が少ないため、チーム全体での数値を用いる。俊足の選手だけでなく、チームとして走塁への意識がどれだけあるかが表れるからだ。

 見方は以下の通り
(1)On Base & Scored(OB&S=%)
本塁打を除いた出塁後の本塁生還率=本塁打を除いた出塁後の生還数/本塁打を除いた出塁数(併殺崩れなどで一塁に残った走者も含めた)
※『スラッガー』の記事上の定義はOn Base は本塁打を除いた出塁数、Scoredは本塁打を除いた出塁後の本塁生還率
(2)1st to 3rd
外野への単打で一塁から三塁へ進塁した数/一塁に走者を置いて外野に単打が出た数
(3)2nd to Home
外野への単打で二塁から本塁へ生還した数/二塁に走者を置いて外野に単打が出た数
(4)1st to Home
二塁打で一塁から生還した数/一塁に走者を置いて二塁打が出た数
(5)Base Taken
暴投、捕逸、ボーク、犠飛、野手選択により進塁した数
(6)Out Adv.
進塁((2)、(3)、(4))を狙ってアウトになった数
※単打や二塁打の打球方向、質などは問わない。すべて同じものとして扱う。

 ベスト8進出校の走塁数値を調べてみた。
浦添商   (1)41%=26/63 (2)4/5 (3)2/6 (4)1/1 (5)7 (6)2
大阪桐蔭  (1)38%=32/85 (2)2/8 (3)6/10 (4)1/3 (5)17 (6)1
常葉菊川  (1)36%=14/39 (2)3/7 (3)4/5 (4)0/2 (5)2 (6)1
横浜     (1)32%=23/71 (2)3/5 (3)4/7 (4)3/4 (5)9 (6)2
智弁和歌山 (1)29%=24/84 (2)0/6 (3)5/10 (4)1/2 (5)8 (6)0
慶応義塾  (1)28%=16/58 (2)4/7 (3)3/7 (4)2/2 (5)1 (6)1
聖光学院  (1)27%=13/49 (2)1/5 (3)3/4 (4)0/1 (5)2 (6)0
報徳学園  (1)25%=14/55 (2)1/3 (3)2/5 (4)1/2 (5)3 (6)1

準々決勝敗退校は生還率30%未満

 面白いことに、準々決勝で敗退したすべての学校が生還率30%未満。逆にベスト4進出校はすべての学校が生還率30%以上を記録した。その中でも、唯一40%台をマークした浦添商高の数字が光る。単打で一塁から三塁に到達する確率が8割。無死や一死一塁で安打が出れば、スクイズや犠飛で得点可能な状況がつくれる。準々決勝の慶応義塾高戦で10回にセーフティスクイズで決勝点を挙げたように、今大会の浦添商高はすでにスクイズで5点。これは、スクイズができる状況をつくれる走塁があるからこそだろう。逆に、智弁和歌山高は単打で一塁走者が三塁を奪ったのが一度もない。二塁から単打での生還率も5割だけに、走者がいる状況でもなかなか得点が入らないケースが続いた。「打って取る」のが智弁の野球だけにしかたないが、走塁への意識がもう少しあればと惜しまれる。常葉菊川高は二塁から単打での生還率が8割。打つだけではなく、旧チームからの持ち味である走塁のよさが表れている。この走塁意識の高さが、初戦の福知山成美高戦で代走の松本拓也が相手野手のスキを突いて本塁を奪った走塁につながっているような気がする。
 驚いたのが、大阪桐蔭のBase Takenの数。2位の横浜の倍と突出している。だが、これは、どちらかというと強打によるところが大きい。4番の萩原圭悟が2打席連続犠飛を記録するなどチーム犠飛は3。暴投や捕逸が多いのも、打者を警戒しすぎて変化球がワンバウンドになることが多いから。報徳学園高の近田怜王が1イニング2暴投を含む3暴投を記録したのも大阪桐蔭高戦だった。

少ない安打で、いかに点数を取るか

 参考までに8校の計測に成功した走塁タイムを挙げておく。
二塁→本塁(秒)
【浦添商】
 仲間常治 6.75(エンドラン)
 山城一樹 7.02
 嘉陽大介 7.08
【常葉菊川】
 町田友潤 6.99
 町田友潤 7.18
 戸狩聡希 7.37
【横浜】
 有泉晃生 6.80(アウト)
 土屋健二 7.08
 土屋健二 7.47
【大阪桐蔭】
 浅村栄斗 7.04
 浅村栄斗 7.10
 萩原圭悟 7.13(アウト)
 福島由登 7.22
 清水翔太 7.25 
 有山裕太 7.40
 浅村栄斗 7.57

 盗塁するばかりが走塁ではない。打球判断や状況判断を含めたベースランニングこそ得点に直結する。少ない安打で、いかに点数を取るか。走塁意識、走塁意欲を高めることが、勝利への近道だ。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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