徹底できなかった城北高の本格派左腕対策=タジケンの高校野球観戦記

田尻賢誉

速いストレートに自信を持って臨んだ宮崎商戦

「ストレート狙いでした」
 今大会屈指の左腕・宮崎商高の赤川克紀対策を尋ねると、城北高の4番・山崎光平はきっぱりとこう答えた。
「ビデオを見るとストレートが多かったので、ストレートに自信を持っている感じがしました。初球からもストレートで入る感じでしたから」
 プロ注目と騒がれ、最速147キロを記録する赤川のストレートに対応しようと、城北高は宮崎商高との対戦が決まってからピッチングマシンを145〜150キロに設定。毎日打ち込んできた。スピードに慣れ、自信を持って臨んだ試合だった。
 初回はほぼデータ通り。先頭の鶴貢徳に対しては初球、2球目ともストレート(いずれもボール)。3球目にスライダーが来たが、4球目はまたもストレート(セカンドゴロ)。中軸の3番・古庄誠二を迎えても同じ。2−1からの決め球こそスライダーだったが、それまでの3球はすべてストレートだった。
 ところが、2回から配球は一変する。4番の山崎には2球目から3球連続してスライダー。福原誠志郎、村方友哉には初球スライダーで入るなどこの回11球中、半分以上の6球が変化球だった。3回は9球中6球、4回も10球中5球が変化球。ビデオとの違いに、城北高の各打者は戸惑った。
「打てる球だと思ったんですけど。練習してきたことと違ったので……」(岡駿光)

悔いの残った5回の攻撃

 0対3で迎えた5回には1点を返し、なおも2死満塁のチャンスを築いたが、山崎はフルカウントからストレートに詰まってショートゴロ。3番の古庄誠の打席時に、審判の了解を得ずにボール交換のため自らの判断でボールボーイにボールを投げてしまうなど、やや冷静さを失っていた赤川を立ち直らせてしまった。
「変化球が多かったので、(カウント)1−2からスライダーを待ちました。狙い通りスライダーが来たんですけど、(ヤマを)張っていた分、ボール球なのにハーフスイングをしてしまった。その気持ちがあったので(ショートゴロは)差し込まれたんだと思います」(山崎)
 この場面での心境を赤川は「スライダーで逃げてはいけないと思いました。気持ちを込めて投げました」と言った。普段から「真っすぐと強い気持ちは誰にも負けない」と話す赤川。やはり、満塁の2−3から投げられるのは最も自信のあるストレートしかなかった。試合前の狙い通り、ストレートだけ待っていれば……。城北高には悔いの残る攻撃だった。

一枚上手だった宮崎商バッテリー

 山崎に象徴されるように、城北高打線は「ストレート狙い」と言いながら、それを徹底できなかった。2回2死二塁では村方が初球の変化球を打ってファーストゴロ。4回2死一、三塁では福原が1−0から変化球を打ってレフトフライ。ピンチではまともにストレートで来る確率は低いとはいえ、若いカウントだっただけに、自分のスイングができずに打たされた形になったのはもったいなかった。
 もったいないといえば、7回の攻撃もそう。6回まで88球を投げさせていたが、この回はわずか4球で終わってしまった。気温30度を超える炎天下、時刻も12時半を回り、最も暑い時間帯に差しかかっていこうかというところ。セーフティーバントを狙ったこの回先頭の堀永和之は仕方ないにしても、せめて2球で2アウトになった後の2番・下川晃世には工夫がほしかった。そのあたりを下川に聞くと「甘い球だったので打ちました。ピッチャーが先頭(打者)で簡単にアウトになったときは(末次敬典監督から)『見ていけ』と言われることもありますけど、何も言われてません」とのことだった。
 狙い球のことも含め、好投手相手には、チームとして徹底した攻撃をしないと攻略するのは難しい。
 ちなみに、いつもより変化球を多めにした配球について、宮崎商高の捕手・永田龍太郎に尋ねると「ストレートがちょっと浮いてたっていうのもありますけど……」と前置きした後、こう付け加えた。
「マシンで140何キロの球を打ってるって情報があったんで」
 宮崎商高バッテリーが一枚上手だった。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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