不合理なユーロ=4強の意外な顔ぶれ

ひのき舞台に踊り出た意外な面々

ロシアの快進撃は今大会最大の“サプライズ”。準決勝でスペインにリベンジを果たせるか 【REUTERS】

 現在開催されているユーロ(欧州選手権)2008のセミファイナリストの顔ぶれを、いったい誰が予想しただろうか。ワールドフットボールの専門家にとっても、意外な結末だったに違いない。準々決勝でPK戦の末にイタリアを下して4強入りしたスペインは、グループリーグが進むにつれ、優勝候補の一つに数えられていた。そのほかの本命は、オランダ、ポルトガル、クロアチア。しかし実際は、思いもよらない主人公がひのき舞台に踊り出た。すなわち、ロシア、トルコ、ドイツである。

 トルコは“ミラクル”を繰り返した。グループリーグのスイス戦、チェコ戦に続き、準々決勝のクロアチア戦でも、劣勢を跳ね返して逆転勝利。特にクロアチア戦での延長ロスタイムの同点劇は、“映画的”な幕切れだった。
 そして、ここまで最大の“サプライズ”は、ロシアの快進撃である。初戦のスペイン戦で1−4と完敗してからのロシアの戦いぶりは、結果ともに称賛されるべきものだ。特にFWのロマン・パブリュチェンコと2試合の出場停止から戻ってきたアンドレイ・アルシャービンは、準々決勝のオランダ戦で素晴らしいパフォーマンスを見せた。偉大なる指揮官、フース・ヒディンクの手によるロシアのフットボールは、まさに“美しい”という形容がふさわしいものだった。

 準々決勝のポルトガル対ドイツは意外性の連続だった。結果は、ドイツがグループリーグの不調からは想像もできない強さを発揮。伝統の重みを証明した格好となった。ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドとデコの2人への依存体質から、最後まで脱却できなかった。準々決勝ではドイツのペースにはまり、前回大会に引き続き、失望のユーロとなった。

伝統国ドイツか、“ミラクル”トルコか

3度の“ミラクル”の果てに準決勝へたどり着いたトルコ。準決勝で最多優勝のドイツに挑む 【REUTERS】

 ドイツではここに来て、2人の選手の株が急上昇している。バスティアン・シュバインシュタイガーとミヒャエル・バラックである。加えて、今大会を通じて絶好調を維持しているのは、ルーカス・ポドルスキ。いまだ調子の上がらないマリオ・ゴメスとミロスラフ・クローゼというストライカーに代わり、ドイツの攻撃を支えている。過去最多となる3度の優勝を誇る伝統国は25日、準決勝でダークホースのトルコと対戦する。

 トルコは明らかに戦力の点ではドイツに劣る。実際、準決勝にたどり着くまでの戦いは、一戦一戦が厳しいものだった。彼らは常にビハインドを背負い、逆転に次ぐ逆転を重ねてきた。初戦のポルトガル戦には完敗し、第2戦ではロスタイムのゴールでスイスに逆転勝利。グループリーグ最終戦では、0−2からわずか15分で3−2とし、試合をひっくり返した。そして、最大の“ミラクル”となったクロアチア戦である。延長29分に0−1となるゴールを許したトルコは、ロスタイムに同点に追いつく。勢いのままにPK戦も制し、ベスト4に上り詰めたのだった。

 トルコにはさらなる“ミラクル”を期待したいところだが、今度ばかりは名将ファティフ・テリムもお手上げかもしれない。クロアチア戦で負傷退場したニハトの欠場は決定的で、そのほか出場停止選手が4人もいるのだ。中でも、今大会その才能の片りんを見せ付けているMFアルダ・トゥランの出場停止は痛い。経験豊かで選手のモチベーションを上げるのに長けた指揮官は、正GKボルカン・デミレルに代わって出場したクロアチア戦でも大活躍を見せた、ベテランの守護神リュシュトゥ・レチベルのスーパーセーブにすがるしかないだろう。彼らに失うものは何もない。トルコは4年前のギリシャのような存在になれるだろうか。

ロシア対スペイン、テクニックの対決

 翌26日にはもう一つの準決勝のカード、ロシア対スペインが行われる。既に2週間前にグループリーグ初戦で対戦した両者。ドイツ対トルコよりもテクニック重視の勝負となるだろう。若きロシアは一戦ごとに成長を遂げており、もはや初戦でスペインに大敗したチームではない。第3戦でのスウェーデンとの一騎打ちにも勝ち、準々決勝のオランダ戦では、組織的な美しいフットボールを披露。優勝候補の筆頭に挙げられていたマルコ・ファン・バステン率いる“オレンジ軍団”(オランダ代表の愛称)に試合をさせなかった。前線からのプレッシャーでボールを奪い、多彩なパターンから攻撃を繰り出す。ヒディンクのフットボールの集大成がそこにあると言えるだろう。

 対するスペインは、イタリア戦での薄氷を踏むような勝利の末に、ようやく“ベスト8の壁”を突破することに成功した。準決勝では、前回の4−1の勝利は忘れるべきだろう。新生ロシアを率いるヒディンクは、かつてバレンシアやレアル・マドリーなどを指揮した経験があり、スペインのフットボールをよく知っている。

 スペイン代表のアラゴネス監督は、優勝で有終の美を飾れるだろうか。はたまた、ロシアがマイナーな存在から一気に、メーンストリームへと躍り出るのだろうか。3週間にわたって繰り広げられてきたユーロも、残すところ3試合。決勝は29日に行われる。

<了>
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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