静かなる闘志を胸に宿したもう一人の柴田=北京の星
水泳を続けてきたのは応援してくれる人がいるから
どうしても形ある結果を残したいと柴田は気合十分だ 【スポーツナビ】
僕は負けず嫌いですね。でも気分屋です。それは(アスリートとして)マイナスにもなるし、プラスにもなるんじゃないですかね。いいときはいいし、悪いときは悪いし。
――柴田さんが練習熱心なのは有名ですが、特に練習の時からいいタイムを出せるのがすごいと、ほかの競泳選手も言っています
そんなことないですよ。みんな過大評価しすぎです。でも、練習から力を出すことは、僕の中では重要ですね。僕の場合は特に、練習してなんぼっていうか。くじけそうになることは山ほどあります。でも、基本的に物事を深く考えないので、明日になれば大丈夫と楽観的に考えるようにしています。
――倉澤利彰コーチはどのような存在ですか?
コーチは(自分に)足りない知識や、上から見る目線、コーチの選手としての経験だとか、僕の足りない部分や知らないところを完全に補ってくれる存在ですね。その日のメニューや試合までの流れなどはすべてコーチが考えてくれます。大学から(の付き合い)ですが、普段はコーチも仕事がありますから、常に一緒というわけではないんです。練習メニューがあって、それを頑張るという感じで。最近は五輪に向けてしっかりと見て頂いています。
――今まで水泳を辞めようと思ったことはありましたか?
何度かはありますよ。社会人になってからですね。その前は水泳を辞めようというより、ここ(の部)を辞めたいと思ったことはあります。でも、水泳を辞めようとは、そのときは思わなかったですね。社会人になってから、引退を考えたことは何回かあったかな。
――それでも続けてきた理由は?
やっぱり応援してくれる人がいるからですね。中途半端なままでは終われなかったし、みんな「おまえならオリンピックに行ける」って言ってくれていたので。(自分自身も)ここまで来たら、「やればできる」とは思っていました。だから、(北京五輪に)実際に行けてよかったです。
――国内に山本選手や松田選手らいいライバルがいたことも、互いに成長する力になっていたと思いますか?
そうですね。いない方が楽でしたけど(笑)。でも、いなかったらたぶん、ここまでのレベルには達していないと思います。
メダルの獲得しか考えていない
「よくクールと言われるが、クールではない」と、柴田は笑う 【スポーツナビ】
もう引き際です。完全に。やはり、最高の舞台はオリンピックじゃないですか。オリンピックが終わったら、世界選手権でメダルを取ろうとか、記録を出そうとは思わないです。オリンピックは目指す最後の舞台、終着駅ですね。
――柴田選手といえば、前半から飛ばすというイメージですが、北京五輪では最初から全力で行くのでしょうか?
予選はある程度周りを見て泳がないと、(予選から決勝まで)3日間あるので戦えないですね。でも、準決勝はフルで行かないと残れないです。前半から行くというのは、周りに対しての展開という話ではなく、僕の中で攻めて行くか抑えて行くかということ。周りに比べて出ているから前半から飛ばしているとか、遅れているからためているとかよく言われますけど、実際にラップを見たらそこまでの差はないんです。周りがというより、自分の中でのレースですね。そうした意味で、(北京五輪では)前半から攻めて行かないとキツイかなと思います。
――6月のジャパン・オープンでは、予選からいいタイム(1分55秒41)を出していましたが、決勝が朝になる北京五輪を意識してのものですか?
そうですね。朝(のレース)しか考えていなかったら、午後(の決勝)はとんでもないことになってしまいました(1分58秒80)。もう少しでしたね。できれば4秒(1分54秒台)を出したかったですけど。
――北京五輪までの間に、改善すべき点、課題はありますか?
全部ですね。テクニックもスピードもスタミナも。やはり、もう1つ2つ、できれば3つくらい上に行っておかないと戦えないと思います。
――世界記録保持者のマイケル・フェルプス(※2)はどのような存在?
あれは神です(笑)。(07年世界選手権の200mバタフライ決勝で一緒に泳いで)人間じゃないと思いました。あの時は(フェルプスに)がーっと先に出られても、焦らずに自分のレースをしようと思ったんですが、それができませんでした。今度は(北京五輪で)フェルプスを追い越せたらいいなあ……と。
――北京五輪で、どのような泳ぎをしたいですか?
自分自身、最高の泳ぎをしたいですし、応援してくれているみんなが見ていてよかったと思えるレースをしたいと思います。どうしても形ある結果を出して残したいですし、(目標は)メダルの獲得しかないです。今のままじゃ厳しいですけど、やるしかないので。決勝が終わったら、何も考えずにただ笑っていたいですね。
<了>
(※1)2005年学生選手権(インカレ)……柴田選手(当時4年)をはじめ、同じく北京五輪代表の佐藤久佳選手(同1年)、森田智己選手(同3年)らを擁した日本大学の競泳男子は、12年ぶりに34度目の総合優勝を果たした。柴田選手は100mが53秒41、200mは1分55秒11の自己ベストで初の2冠を達成し、チームの優勝に貢献した。ちなみに、現在の自己ベストは100mが52秒30(07年日本選手権)、200mは1分54秒99(07年世界競泳)
(※2)マイケル・フェルプス……米国出身の22歳。“水の怪物”と呼ばれる世界最強のオールラウンド・スイマー。2007年の世界選手権では7種目で優勝し、うち200mバタフライを含む5種目で世界新記録を樹立した。北京五輪では史上初の8冠が期待される