16年ぶり五輪つかんだ、バレー全日本男子の戦略

小林敦

ディフェンス戦術の成功

<図2>オーストラリアセッター陣のトス配分グラフ 【スポーツナビ】

 また、この日はオーストラリアの8本を上回る15本のブロックポイントを挙げた日本のディフェンスは、非常に効果的に機能していました。データの少ない7番ヤング選手の特徴をタイムリーにとらえディフェンス戦術を決定することにより、数多くのブロックポイントを挙げることに成功したのではないでしょうか。予想ですが、日本のディフェンス戦術が決定するまでのプロセスを簡単に説明してみます。

 図2、図3は、日本戦の1試合分のデータを独自に採取して、作成した簡易表です。
アナリストから得られる情報はさらに高度なものですが、この表から読みとれる範囲で相手の特徴と対策を考えてみたところ、

<パターン1>
相手の特徴:石島選手、山本選手のサーブが好調だったため、2人にサーブがまわるR456(=セッターが前衛にいるパターン)は相手のレセプションが乱れる可能性が非常に高い。レセプションが乱れた際の選択肢として可能性が高いのが、4番ベンジャミン・ハーディ選手が前衛であれば4番ハーディ選手。後衛であれば17番キャロル選手。
対策:複数ブロックを形成するためにレセプションが乱れた次点でアジャスト

<パターン2>
相手の特徴:日本のサーブがジャンプフローターサーブの場合、後衛WSが2枚レセプションに参加しているため、パイプ攻撃はない。
対策:スプレッドリード

<パターン3>
相手の特徴:R1はどちらのセッターも4番ハーディ選手の信頼度が高い。
対策:ライト側デディケート

<図3>オーストラリアセッター陣のトス配分表。※2段トス含む 【スポーツナビ】

<パターン4>
相手の特徴:R2はトスが分散されている。
対策:コミット対応

<パターン5>
相手の特徴:R3の場合、7番ヤング選手はクイックをおとりでサイド攻撃重視のトスワーク、18番オルダーマン選手は6番ユーディン選手を信頼している。
対策:7番セッター時はバンチリード、18番セッター時はレフト側デディケートリード

 以上のようなディフェンス戦術を選択していたことがうかがえます。さらに、日本のブロッカーは勝負どころでブロックに参加する優先順位を定めていたようです。途中ゲスブロックをして完全にふられてしまった場面もありましたが、攻撃の絞り込みをした上で勝負をかけたブロック戦術が行なわれた証拠となります。そういったベンチからの情報と、選手の経験から得る情報とがリンクして、効果的なブロック戦術が決定され採用されていったのでしょう。

 オーストラリア戦では、効果的なディフェンス戦術の効果が大きく作用し、3−0のストレート勝ちを収めることができたのだと思います。

ブロックフォローへの意識が光った大一番

全員の守備への意識が、攻撃力につながる 【Photo:築田純/アフロスポーツ】

 五輪の切符を獲得するゲームとなったアルゼンチン戦の勝負のポイントはずばり『粘り』です。ファイナルセット5−3の時に見せたリベロ・津曲勝利選手のブロックフォローが印象的ではありましたが、それだけではなく、この試合は随所に『粘り』がみられました。
 特にアルゼンチンとの大きな違いは、ブロックフォローの意識に顕著に表れていました。ブロックフォローに参加するのは当たり前です。しかし、攻撃に参加しない全ての選手のブロックフォローへの意識がアルゼンチンを圧倒していました。
 どうしてもスパイクやサーブを決める選手、ブロックを止める選手など得点を挙げる選手にばかり目が向いてしまいますが、直接得点は奪えなくても得点につながるまでの仕事にまじめに取り組んでいる姿勢こそが、チームを支え、『粘り』となってチームに還元されます。
 日本が日本らしくあるために必要なことは、そんな当たり前の事の中に隠されているのかもしれません。

 最終戦のアルジェリア戦は、大学生の二人、清水邦広選手、福澤達哉選手の活躍がクローズアップされた試合となりました。五輪切符獲得後の消化試合という、プレッシャーのかからない試合での結果だけに、今回の活躍が今後の活躍に直結するとは安易に考えられません。しかし彼らのポテンシャルの高さは今後の日本の中心選手となることを証明しています。

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著者プロフィール

深谷高校、筑波大学を卒業後、東レアローズへ入部。2000年5月〜05年5月までキャプテンを務め、05年3月にVリーグ初制覇。また、04年のアテネ五輪最終予選では全日本男子のキャプテンも務めた。06年5月の第55回黒鷲旗優勝を最後に現役引退。現在は東レアローズコーチ。

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