16年ぶり五輪つかんだ、バレー全日本男子の戦略
歓喜にわいた全日本男子の五輪最終予選。あらためて振り返る、勝利と敗戦の原因とは 【坂本清】
日本中が歓喜の渦に巻き込まれた6月7日。全日本男子バレーボールチームは、16年ぶりに五輪出場権を獲得しました。
あれから2日たった今もメディアから近所の井戸端会議まで、彼らの功績をたたえる記事や意見であふれています。私自身もバレーボールに携わる人間の一人として非常に感慨深くこの結果を受け止めています。この状態でこまやかな戦評や解説は的外れになるのかもしれませんが、このような喜びの飽和状態にある今だからこそ、あえて勝ちの原因、負けの原因を分析することに意味があるのだと思います。
コラム最終回となった今回は、事実上の決定戦となったオーストラリア戦の解説を中心に、アルゼンチン戦の勝負を分けたポイント、アルジェリア戦の考え方、今後の全日本男子に期待することを述べていきたいと思っています。
スタートローテから見る日本の狙い
<図1>オーストラリア戦先発メンバー 【スポーツナビ】
前回のコラムでも指摘しましたが、セッターを代えることによりチームの攻撃スタイルの変化が可能となり、なおかつ相手にその情報が少なければ少ないほど、効果的であるといえます。後のないオーストラリアは奇襲ともいうべきセッターの起用を見せ、日本に揺さぶりを掛けてきたのでしょう。
また、スタートローテーションはオーストラリアがR3(S5)、日本がR2(S6)で、全てのセット同一ローテーションからのスタートでした。(図1参照)
スタートのローテーションを決定する際に考慮することは、
・サーブ&レセプション(サーブレシーブ)・アタック&ブロックのマッチアップ。
・自チームのベストローテーションはどこで、相手のどこに当てるべきか。
・自チームのワーストローテーションを最後にもってくる。
・相手のベストローテーションはどこで、自チームのどこを当てるべきか。
・相手のワーストローテーションはどこで、自チームのどこを当てるべきか。
などがあります。
今大会、日本は2パターンのローテーションを採用していました。一つ目は、サーブ権あるなしにかかわらずR2(S6=図1の日本参照)スタートを採用し、R1(S1=セッターがバックライトにいるパターン)の出現を少なくするスタートローテーション。もう一つは、必ず越川優選手のサーブからスタートする、レセプション時R1(S1)、サーブ時R2(S6)スタートのパターンです。
R1(S1)がワーストローテーションである理由は、ライトがベストポジションとされるオポジット(以下OP)がレフトスパイクを打ち、逆にレフトに位置する事が多いウイングスパイカー(以下WS)がライトスパイクを打つローテーションだからです。それぞれ、練習や試合を含め絶対的な経験数の少ないポジションからの攻撃であるため、その精度が低いのです。特に日本のOPである山本隆弘選手のようなレフティーのレフトスパイクはさらに難しいとも言われています。そのため日本がR2(S6)をスタートに選ぶケースが多くなっていたのでしょう。
例外的にR1(S1)の越川選手のサーブスタートを出現させるケースがありますが、R1(S1)レセプション時に受けるサーブの威力が弱いか、相手ブロックの能力が低い場合にのみ出現させていると思われます。オーストラリア戦では常にR2(S6)を採用しているため、相手のサーブ、ブロックに脅威を感じていたと考えられます。
対するオーストラリアがR3(S5)を選んだ理由は、恐らく1番ダニエル・ハワード選手を前衛でプレーさせる機会を多くすることと、17番ポール・キャロル選手のサーブを多く出現させることを目的に採用したことが予測されます。
効果的だった荻野の投入
日本は、序盤にジャンプフローターサーブで連続失点を奪われつつも、守備的WS荻野選手の起用によってレセプションを安定させました。オーストラリアは日本のレセプションを乱すために強力なジャンプサーブを打ち始めますがミスが先行し、慌ててジャンプフローター重視の戦術に切り替えるものの、守備的WS荻野選手が起用されていた日本にとっては全く機能せず、常に日本にとって戦いやすい環境となっていたといえます。