ポーランド、「古豪復活」への長い道のり=ドイツ 2−0 ポーランド

中田徹

攻守に精彩を欠いたポーランド

ドイツはポドルスキ(左)のゴールでポーランドを2−0で下した 【Getty Images/AFLO】

 ポーランドはキックオフからバックラインでゆっくり横パスを回してから、ギアアップ。ドイツGKとDFの連係ミスから生まれたビッグチャンスに、クルジノベクが強烈なシュートを放つも枠を外した。
「おっ、ポーランドもやるな!」
 そう思わせた立ち上がりだったが、その後89分間、ポーランドは攻守に精彩を欠いた。
 不調のポーランド相手に、ドイツは余裕の戦い。20分、マリオ・ゴメスのスルーパスがポーランドのもろいバックラインの裏を突き、クローゼのアシストでポドルスキが先制ゴール。72分には、ポーランドDFがボール処理をミスしてドイツにチャンスが訪れ、やはりポドルスキがボレーシュートをゴールに蹴り込み2−0。試合を決定付けた。

 ポーランドは最初の失点で、「『オフサイドだったんじゃないか』。そんな悪い気持ちを持ってしまった」とチームに動揺が起こったとベーンハッカー監督は言う。ゴメスがパスを出した瞬間、ポドルスキはオフサイドポジションにいたが、クローゼがオンサイドのポジションからうまく飛び出てボールを受けた。しかし、結局はポドルスキがシュートを決めたのだから、ポーランドにとっては悔いが残る。だがポーランドのDF陣は、5分にもバラックのスルーパスからクローゼに簡単に裏を突かれており、ドイツ相手に不用意な守備が目立っていた。

「われわれはドイツをよく封じていたと思っているが、ドイツは常にカウンターでいいプレーをしていた」
 とベーンハッカーは語った。しかしポーランドはボールを持たされていただけで、ドイツの手のひらの上で泳がされ続けていた。内容・結果共に完敗だったと言えるだろう。

かつて一世を風靡したポーランド

古豪復活の鍵を握るベーンハッカー監督 【Getty Images/AFLO】

 ポーランドは74年、82年のワールドカップ(W杯)で3位になるなど、カウンターサッカーで一世を風靡(ふうび)した。サッカーがメジャースポーツでなかった日本でも、サッカー好きの間ではポーランドはポピュラーな存在だった。サッカー好き同士の自己紹介では、「私は“ラトー”と呼ばれてます」と特徴的な額を持った名選手の名前をあだ名にする人もいた。
 しかしその後、ポーランドは世界のサッカーシーンから取り残された。巨額なテレビマネーはイングランドリーグ、スペインリーグ、セリエA、ドイツ・ブンデスリーガなどトップフットボールのレベルアップを生んだだけでなく、インフラストラクチャーの差も生んだ。

「ポーランドは20年、取り残されている」
 2006年W杯終了後、ポーランドの監督に就いたオランダ人のベーンハッカーはポーランドのサッカー事情を語った。しかしポーランドに来た時、ベーンハッカーは孤独だった。サッカー協会会長だけが唯一ベーンハッカーの理解者だったが、ベーンハッカーにはなかなか正式な滞在・労働ビザが下りず、書類の上でもベーンハッカーのポーランド滞在は不安定なものだった。それでもベーンハッカーは、トップチームの強化に力を注ぐ一方、ポーランドのサッカー施設やユース育成の重要性を説き続けるなど、ポーランドサッカーのレベルアップのため精力的に力を注いだ。

望みを捨てていないベーンハッカー

 ベーンハッカーにとってポーランドでの公式戦初試合は、ユーロ(欧州選手権)2008予選の対フィンランド戦。ドイツW杯に出たばかりのポーランドにとっては格下とも呼べる相手だったが、1−3と惨敗した。しかしその後はポルトガル、ベルギーといったライバル国に勝ち続け、ポーランドは立ち直った。ベーンハッカーはポーランドを初のユーロ出場へ導き、ポーランド政府から勲章を得けた。孤独だったベーンハッカーは、今や国の英雄である。
 それでもドイツ戦を見ても分かる通り、ポーランドにとって「古豪復活」とはまだ言えない。20年間投資を怠ったツケを、たった一人の監督が2年で改善できるほどサッカーの世界は甘くない。そのことをサッカー大国ドイツがポーランドに示した。

 ベーンハッカーの顔にたっぷり刻まれたしわ、太陽をたっぷり吸収したような色黒の肌。チャレンジ精神に満ちた生気みなぎる表情。サッカー界では“ドン・レオ”と呼ばれるベーンハッカーは、オランダ代表、アヤックス、フェイエノールト、レアル・マドリーなどエリート監督でありながら、トリニダード・トバゴ、サウジアラビアといったサッカー後進国のレベルアップにも尽力している。もちろんベーンハッカーは大物監督だから、彼を雇うには大きな金が動くはずだが、それでもサッカー後進国への技術移転・知識移転に励む姿は、“ひとりODA(政府開発援助)”と名付けたくなる。

「まだグループリーグ突破は開かれている。願わくばクロアチア戦でも、ドイツは今日われわれに対してやったことと同じことをしてほしい」
 ドイツ戦で大ブレーキに陥ったポーランドだが、ベーンハッカーはまだまだ望みを捨てていない。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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