伝統の復活か、サプライズの継続か=欧州記者のユーロ2008展望 第3回

激戦必至の“死のグループ”C

2年前のW杯決勝以来、鎬を削ってきたイタリアとフランス。再びグループリーグでまみえる 【Getty Images/AFLO】

 今大会のグループリーグで最も注目を集め、激戦必至と見られるのがグループCだ。おなじみの“死のグループ”と言われるこの組には、イタリア、フランスというW杯ドイツ大会のファイナリスト2カ国と、華やかなフットボールを見せる強豪オランダ、実力国の一つであるルーマニアが入っている。ここまで興味深いグループ分けには、そうそうお目にかかれないだろう。

 特にイタリアとフランスは2年前のW杯決勝以降、ライバルとして鎬(しのぎ)を削ってきた。今大会の予選でも同じグループに組み分けられ、最終的にはイタリアが首位で通過、フランスが2位に続いた。しかし両者の対決では、1勝1分けでフランスに軍配。ドイツで苦杯をなめたイタリアに、まずは雪辱を果たした。常に議論を巻き起こす“レ・ブルー”(フランス代表の愛称)の監督レイモン・ドメネクと、イタリア選手たちの舌戦も話題になったが、恐らく本大会でも“続編”が見られることだろう。

 イタリアはW杯以上とも言われるユーロの大舞台で、世界チャンピオンとしてどのような戦いを見せるのか。すでに知将マルチェッロ・リッピは去り、フランチェスコ・トッティやアレッサンドロ・ネスタといった2年前の主力選手も代表を引退した。とはいえ、リッピの後を引き継いだロベルト・ドナドーニは、それまでの路線を踏襲しており、安定感は抜群だ。
 一方のフランスはW杯を最後にジネディーヌ・ジダンが現役を引退し、一つの時代が終わった。しかし、チームの基本は2年前と変わらない。“ポスト・ジダン”の象徴としては、フランク・リベリーやカリム・ベンゼマが台頭。ドメネク監督が采配(さいはい)さえ間違えなければ、そのタレントと実力は随一だろう。

 オランダは、欧州の各国リーグで主力としてプレーする若手が中心となり、新チームとして力を発揮しつつある。ロビン・ファン・ペルシ(アーセナル)、ラファエル・ファン・デル・ファールト(ハンブルガーSV)、クラース・ヤン・フンテラール(アヤックス)らの活躍にも期待がかかる。指揮官のマルコ・ファン・バステンと、ルート・ファン・ニステルローイ、クラレンス・セードルフらベテラン選手との確執(最終的にセードルフは代表を辞退)など、オランダの“お家芸”とも言える内紛さえなければ、2強を脅かす存在なのだが……。
 最後にルーマニアだが、語られることはそれほど多くないものの、間違いなく力は持っている。クリスティアン・キブーやアドリアン・ムトゥといったスター選手がチームを引っ張れば、チームのコンディション次第では番狂わせもあるかもしれない。

グループDは3強とギリシャの戦い

 最後にグループD。予選グループでも同組だったスペインとスウェーデンは本大会でも顔を合わせる。この2カ国にロシアを加えた3チームで、グループリーグ突破を争うことになるだろう。イングランドを退けてクロアチアとともに予選突破を果たしたロシアは、名将フース・ヒディンクのもと、パフォーマンスを向上させている。前回大会の覇者ギリシャについては、“奇跡”の再現は難しいと言わざるを得ない。

 スペインは、過去に何度も涙をのんだ“ベスト8の壁”を乗り越える必要がある。攻守にタレントはそろっているが、問題はフィジカルよりメンタル面だろう。ビセンテ・デル・ボスケに次期監督の座を譲ることが濃厚なルイス・アラゴネスにとっては、集大成の大会となる。指揮官がかたくなに招集を拒んだ永遠のキャプテン、ラウル・ゴンザレスの不在が吉と出るか、凶と出るか。
 スウェーデンはよくも悪くも、エースストライカーのズラタン・イブラヒモビッチ次第だろう。シーズン終盤は負傷していたこともあり調子を落としていたが、爆発力は秘めている。

 6月7日に開幕するユーロ2008本大会。理論的には、強豪国が順当に勝ち上がっていくと予想される。前回大会のようなサプライズは起こりにくいだろうが、これまでも番狂わせがユーロを盛り上げてきたのも事実だ。フィジカルの差が運命を分ける気がするが、果たして……。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント