月間最優秀投手の大活躍で思い起こす「1968年の夏」=MLB名人物ファイル
リーグを席巻するウェブとリー
今季大躍進を遂げ、メジャーに旋風を巻き起こしているインディアンスのリー 【 (C)Getty Images/AFLO】
2006年にリーグ最多勝とサイ・ヤング賞に輝いたウェブは、いまやメジャーでトップクラスの安定感を誇る先発投手だが、リーの受賞は「サプライズ」の感がある。昨年は開幕から故障者リストに入り、復帰後もふがいない登板が続き、首脳陣の信頼を失って7月末から5週間もマイナー落ちするなど、5勝8敗、防御率6.29と最悪のシーズンを送った。それが4月に早くも昨年の勝ち星に追い付き、37回2/3で2四球という抜群の制球力も、04年に11個の死球を与えるなど典型的な荒れ球のサウスポーだったこれまでのリーからは考えられない数字である。今季は全投球数の80パーセント近くを占める90マイル(約145キロ)台前半のストレートで積極的にストライクを先行させ、決め球の選択肢を、カーブ、スライダー、チェンジアップと増やしているのが、ここまでの好成績につながっている。
いささか気が早いがウェブは年間30勝ペース、リーにも昨年までの最近10年間で00年のペドロ・マルティネス(当時レッドソックス、現メッツ/1.74)と05年のロジャー・クレメンス(当時アストロズ/1.87)の2投手しかマークしていない防御率1点台の期待がかかる。そして、ちょうど40年前の68年、メジャーリーグでは2人の投手──デニー・マクレイン(タイガース)とボブ・ギブソン(カージナルス)が、空前の「ピッチング・イヤー」の主役を演じていた。
歴史的シーズンを送った68年の両雄
そして68年、32歳のギブソン、24歳のマクレインは、歴史的なシーズンを迎えた。ギブソンは先発した34試合中28試合で完投し、13完封、防御率1.12を記録し、22勝(9敗)を挙げた。もし味方打線の援護があれば間違いなく30勝の大台に乗る勢いだった。一方のマクレインも長身を生かした快速球がさえ渡り、336回を投げて防御率1.96とギブソンに優るとも劣らぬ投球内容で、実に34年ぶりとなる30勝に到達。最終的には31勝(6敗)に達した。
ともにサイ・ヤング賞とMVPの同時受賞を果たし、チームをワールドシリーズに導いた両雄は、同年10月2日(現地時間)、ワールドシリーズ第1戦に先発。この試合でギブソンはシリーズ新記録の17奪三振で完封勝利を演じた。一方のマクレインは第1戦、第4戦とギブソンに連敗したが、中2日で先発した第6戦で完投勝利をマーク。3勝3敗のタイで迎えた第7戦、ギブソンは3試合連続で完投しながら、味方の不運なエラーもあって4失点で敗戦投手となり、下馬評を覆す形でタイガースが23年ぶりの世界一に輝いた。
ギブソンとマクレインの明暗
対照的に、マクレインは70年2月、賭博行為への関与と拳銃の不法所持が明るみに出て、当時のコミッショナーから7月1日までの出場停止処分を受けてしまう。また1日にコーラを25本も飲み干し、オフシーズンも毎日ボウリングやテレビ出演に明け暮れた不摂生もたたって球速がガタ落ちとなり、3勝5敗、防御率4.63と成績も急降下。オフにはタイガースに見限られる形でワシントン・セネタース(現レンジャーズ)に放出された。その後も全盛期の球威を取り戻せないまま、ブレーブス、アスレチックスを転々とし、72年を最後に28歳の若さでユニホームを脱いだ。25歳で114勝をマークし、将来の殿堂入りを確実視されていたマクレインは、引退後、コカインの密売や業務上横領などで逮捕・服役を繰り返した。
08年5月5日現在、メジャーリーグではリーを筆頭に、10位のウェブも含めて23投手が防御率2点台以下を記録している。ウェブは3日のメッツ戦で6回4失点ながら7勝目を挙げ、開幕7連勝を飾った。リーもまた、スタートで思わぬつまずきを見せたインディアンスにあって、その安定感に満ちた投球内容は反攻への原動力として大いに期待が寄せられている。だが、68年の偉大な「ピッチング・イヤー」の再現を思わせるそんな球界のニュースをよそに、ことし64歳のマクレインが、今度は6万ドル(約630万円)もの債務不履行の責任を問われ、またしても逮捕状を請求されたという悲しいニュースが伝わってきた。長い刑務所生活の間にすべての歯を失い、巨象のように超え太った「落ちた英雄」の姿からは、もはや昔日の栄光をうかがい知ることはできない。
<了>
(※日時はすべて現地時間表記)
※次回は5月20日に掲載予定です。
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