松坂の進化と新スライダー

カルロス山崎

誰もが「カーブ」だと思った

緩急をつけたピッチングでアスレチックス打線に的を絞らせなかったレッドソックスの松坂 【 (C)Getty Images/AFLO】

 オークランドで行われた米国での開幕戦。松坂大輔は2回に先制本塁打を許すも、アスレチックス打線に的を絞らせない配球と制球力でわずか2安打1失点に抑え、今季初勝利を挙げた。

「前回(3月25日の日本開幕戦)の反省を生かして、ストレートとカットボール、スライダー、この3つをテック(ジェイソン・バリテック捕手)と話してうまく使いました。狙い球を絞らせずに投げられたと思います」

 松坂のこの言葉を聞いて、「あれ、カーブは?」と心の中で反論し始めた記者は少なくなかったはずだ。例えば5回裏、アスレチックスの攻撃。先頭のエミル・ブラウンに投じた初球、縦に大きく割れた75マイル(120キロ)の「カーブ」が外角低めに決まってストライク。やや拍子抜けしたブラウンは、その後91マイル(146キロ)のストレートをファウル。タイミングが完全に崩れ、結局は5球目、内角低めのカットボールに手が出ずあえなく三振。その後も、カウントを取りにいく球として「カーブ」を有効的に使った松坂は、尻上がりに調子を上げていった。

 誰もが「カーブ」だと疑わなかった。ほとんどの日本人記者はスコアブックに「75マイル、カーブ」、「76マイル、カーブ」などと小さく書き込んでいたはず。だが試合後、「カーブではなく、スライダーです」という本人の言葉によって、それらは「カーブではない」という衝撃の事実が判明したのだった。

チェンジアップもオリジナルで

 特に光ったのは緩急をつけたピッチングだ。90〜93マイル(150キロ前後)のストレートに対し、76〜77マイル(120キロ前半)の「カーブ」と思っていた遅い「スライダー」。この球速差のあるコンビネーションがアスレチックス打線のバットを湿らせた。

「どの打線に対しても、やっぱり緩急はうまく使っていかなくてはならない。きょう(現地時間4月1日)は緩い変化球のコントロールも良かったし、早い球のコントロールも良かった。これくらいのものは平均して続けていきたい」(松坂)

 そもそも、「カーブ」という判断を下した理由は、ボールの軌道と70マイル台という球速にある。だいたい、松坂のスライダーはこれまで遅くても81〜82マイル(130キロ前半)は計時していたのだから。だが、松坂によると握りも「(もちろん)カーブではなくスライダー」で、これまでに投げてきた「縦スラ(縦に落ちるスライダー)」でもない。それには「ちょっとした工夫」が施されているというのだ。

 「工夫」という言葉を聞いて、チェンジアップの改良に取り組んでいたことを思い出した。オープン戦2試合目の登板となった3月4日のパイレーツ戦。この日、チェンジアップがビシビシと決まった松坂は「チェンジアップを得意とする何人かのピッチャーに、握りとか投げ方の意識の仕方とかを聞きました。自分なりにアレンジをして、オリジナルのものを作っています」と改良点について話した。握り方、握るポイント、力加減、腕の振り方、手首の使い方によってどう変わるのか。今回の“新スライダー”の例を取ってもそうだが、松坂の技術向上への探求心が絶えることはなさそうだ。

 改良によって球速がアップしたチェンジアップと、球速がダウンしたスライダー。さらには、まだ完全ではないにしても、昨季途中から取り組んでいるツーシームも内野ゴロを打たせるのに有効なカードとなりそうだ。

<了>
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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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