フットボール史に記された特別な一日 東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

ヒーリー“ヒート”で、北アイルランドの夢が現実的に

殊勲のヒーリー(中央)を抱きかかえながら喜ぶ北アイルランド代表イレブン。スウェーデンも打ち破り、ユーロ本大会出場が現実味を帯びてきた 【 (C)Getty Images/AFLO】

 肝心の「イングランド・フル代表」の話に入る前にもう一つ、今だからこそ銘記しておかねばならない“新スーパーエース”の活躍譚がある。彼の名はデイヴィッド・ヒーリー、北アイルランド代表。きっと、昨年9月のユーロ予選・対スペインで劇的なハットトリックを達成して金星のヒーローになったことを覚えている読者も少なくないはずだ(よね?)。

 ニュー・ウェンブリーとクローク・パークの歴史的発進と同じ24日、ヒーリーは再びリヒテンシュタイン相手にハットトリックを記録した。リヒテンシュタイン……なるほど。いやいや、話はそれだけで終わらない。その大爆発にすわ「ヒーリー恐るべし」とラガーバック監督が警戒発令したばかりの、グループ首位で無敗の快進撃を続けていた大敵スウェーデンにも、2ゴールを浴びせて“番狂わせ”の主役を演じてみせたのだ。
 まだ予選ラウンドもハーフウェイ手前で浮かれてばかりはいられないとしても、ヒーリー効果、もしくはヒーリー“ヒート”に乗せられて「北アイルランド、1986年ワールドカップ以来のビッグトーナメント出場」の夢がひとまず現実的に膨らんだことは、(今は亡きジョージ・ベストのためにも)実に喜ばしい、いや、とにかく無性にうれしい。

 ところで、所属のリーズは現在チャンピオンシップの最下位で“3部”降格の瀬戸際。こちらも“ヒーリー効果”が働けばいいのだが……うーん、来シーズンのヒーリーは1月に移籍話があったエヴァートン辺りにいるのかも。それとも、“昨年9月”にうわさが流れたスパニッシュ・リーガ入りの話が再燃したりして?(ちなみに、当時の“行き先”はヴァレンシアだった。ヴィジャのリヴァプール入りがささやかれているから、ひょっとしたら?)。

今のスリー・ライオンズにはベッカムが必要だ

 ようやく“本題”の時間。と言っても、明確に語れない部分がありすぎて困ってしまう。あくまでも希望的観測の延長だったとしても、マクラーレンも必ずや前向きに検討したはずのベッカムの復帰が(間の悪い故障で)かなわなかったことが、不透明性の第一点。
 ひいきだと言われようがどうしようが、今のスリー・ライオンズにはベッカムという“男のキャラ”が必要だと思う。イスラエル戦の失敗は、ただただ、要の中盤に「何が何でもおれが仕切る」と主張するようなリーダーが見当たらなかったことに尽きるのではないか。いや、少なくとも目の肥えた観戦者なら、きっとこの点に異論はないはずだ。

 筆者は、代表入りした頃以来、ランパードからずっと“疑問符”を外せないでいる。プレーヤーとしては文句はない。しかし、どう見てもプレースタイルからもタイプとしても、代表のリーダーにはどこか物足りない。オーラが弱いのだ。ハーグリーヴズも然り。2人とも脇役としてこそ価値を十二分に発揮するキャラに見えて仕方がないのである。
 2人に比べてジェラードにはまだ“見どころ”がありそうだが、それでもベッカムには見劣りがする。確かにアンドラ戦では2ゴールのおまけつきで主役を演じて見せた。しかし、所詮はアンドラである。クロアチアやロシア、本戦に進んだときの並み居る強豪を向こうに回したときにも同じようにうまく運ぶだろうか。期待こそすれ、不安は消えない。 ここで言わんとしているのはあくまでも“キャラ”の問題であって、具体的な影響力もしくは戦術的な補完性とは少しニュアンスが違う。いわば「精神的な芯(コア)」としての存在感とでも言おうか。となればやはり、ベントリーではまだ荷が重いよな、うん。もちろん、われらが“ベッカムさま”が心身ともに万全であってこその話だが。

 第二にクラウチがいなかった。ベニテス流のリヴァプールでならともかく、代表戦のクラウチはほぼ欠かせない「相手への最大の驚異」であり、実際に見違えるばかりの動きを随所に見せる。こののっぽのストライカーには国際試合が妙に“フィット”するらしい。
 そこで思うのだ。故障上がりではない完調のルーニーとクラウチが組み、こちらも万全のベッカムがそろえば、少なくとも2006年のドイツよりは格段にいい結果が望めるはず。この3人がはつらつとかみ合えば、ジェラード、ランパードも最高のスパイスとして威力を発揮する。“もう1人”のお奨めはアストン・ヴィラの左利きオールラウンダー、ギャレス・バリー。スピードのないダウニングを使うよりも、ぐんと中盤の機動性・回転力が向上する。ダウニングはとっておきの武器としてベンチに置く。スピードはピカ一でボールも運べるアーロン・レノンも然り。なぜなら彼は右サイドにいてこそ価値があるから(左サイドに入ったイスラエル戦では、せっかく持ち込んでも左足のクロスがもう一つだった)。

 以上が、今回のイスラエル、アンドラ戦を踏まえた“きわめて私的”な反省と改善案。ついでながら、マクラーレンとルーニーが口論したとかしないとかの“野次馬報道”は聞き流しておくに限る。よくあることで、毒には決してならない。

<この項、了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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