知られざる富山とバスケの関係 強化編 馬場雄大と八村塁を育て上げた名伯楽
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奥田中は全国の常連ではない
富山市立奥田中出身の馬場雄大。馬場が3年のとき、八村塁が1年だった 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
馬場雄大(アルバルク東京)は昨年のワールドカップ(W杯)アジア予選で活躍し、19日のBリーグオールスターゲーム2019に最多得票で選出された。八村塁(ゴンザガ大3年)は米国の大学バスケNCAAの注目株で、今年6月のNBAドラフトはアーリーエントリーと上位指名が濃厚だ。
2人は富山市立奥田中の卒業生でもある。馬場が3年生のとき、八村は1年生だった。馬場は中学入学時から170センチを超え、父も元日本代表という「サラブレッド」だ。一方の八村は諸事情で野球部に入らず、中1の5月からバスケ部へ入った初心者。そこから驚異的な成長を遂げて、今に至っている。
彼らを指導したコーチが坂本穣治氏。20年以上に渡って、外部指導者として男女のバスケ部を教えてきた。工場の経営者でもある坂本コーチが指導するのは週3回の夜間練習と土日。28年に渡って中学バスケの現場に立ち続けている。
奥田中のバスケ部が連戦連勝の超強豪かというと、そうではない。チームは「北信越の壁」に苦しんできた。坂本コーチはこう振り返る。
「全中(全国中学生大会)は1回しか行っていないけれど、北信越は18回行っている。富山では勝っているんですが、北信越は(全中出場枠が)2枠。ウチは全国のファイナリストに3回くらい負けている。だから大変なんです」
北信越は中学バスケが盛んな土地柄だ。特に新潟、石川は強豪校が多く、例えば新発田市立本丸中は富樫勇樹の出身校。彼の父である英樹氏(現開志国際高校監督)が長く指揮を執っていて、全国制覇歴もある。
坂本コーチは北信越の構図と、厳しい競争が生み出した奥田中のスタイルをこう説明する。
「新潟なんてミニバス(小学生年代)のレベルが違って、富樫みたいなのがたくさんいる。石川の個人技もすごくて、個をどうこうしたら勝てません。だから奥田はドリブルを極力少なくして、みんなでやるバスケット。ボールを持ってないやつがどのように動くか、残りの4人が頑張って働こうというスタイルです」
「牙」を抜かない坂本の指導法
八村のプレースタイルは、坂本コーチの指導方針も大きく影響している 【Getty Images】
「馬場や八村は邪魔にならなくて、どんな関係でも融合できる。苦しいときはオレだよ、今はアナタだよというのが彼らは見えている」(坂本コーチ)
馬場と八村は傑出した選手だが、奥田中の卒業生は他にも活躍を見せている。笹倉怜寿(東海大三高→東海大)は八村の同級生で、昨年12月のインカレ制覇に大きく貢献した。飴谷由毅(富山工業高→大東文化大)も昨秋の関東大学1部リーグ準優勝を果たした強豪の主力だ。坂本コーチの指導は中学生年代の何年も先で実っている。
名伯楽はこう胸を張る。
「笹倉も飴谷も無名選手ですよ。でも試合でバンバン使ってもらっている。不思議だなと思いながら見ていると、目立ってはいないけれど仕事をしている」
彼に「バスケの指導で一番重視していることは何か?」と問いかけてみた。
「牙を抜かないこと――。すべてが良い子は難しいって話です。ハンドルじゃないけれど、遊びをちゃんと作りながらやった方がいい」
選手の指導を巡って、過去にはちょっとした摩擦もあった。
「『学校生活がだらしないから、シュートも落ちるだろ』と言う先生方は結構います。『英語の宿題をしていないから、点数が悪いからバスケットをさせない』という先生がいたので、『じゃあバスケで点数が取れないから、英語の授業を受けさせないでおこうか』みたいな話をしたこともある」
坂本コーチが甘い指導者かといえば違うが、彼は品行や礼儀を極端に重んじる指導スタイルに対して批判的だ。八村はいい意味で大らかな性格だし、相手が年上でもはっきりモノ申すタイプでもある。そういう「牙」を坂本コーチが抜かなかったからこそ、彼は米国で台頭している。