若虎の競争図に明確な変化あり 山田隆道の阪神キャンプリポート

山田隆道

打撃練習をする原口を見守る金本監督 【写真は共同】

 今年も沖縄県宜野座村に行ってきた。虎党の私にとって、毎年恒例となっている阪神タイガースのキャンプ訪問である。現地では知人の球団スタッフや阪神OB、マスコミ関係者にお会いし、虎談義に花を咲かせながら、たっぷり練習を見学することができた。

 本稿はそんなキャンプ訪問を終えての、私なりのリポートである。なお、日々の細かなニュース等はすでに多くの専門記者が各メディアを通して報じているため、外野の人間である私はあくまで一介の虎党としての視点で綴っていきたい。

例年とは異なる落ち着いた雰囲気

 さて、まずはキャンプの全体的な印象から話を始める。

 私が訪問したのは第1クールから第2クールにかけて、つまり序盤だったため、今年の超目玉選手である糸井嘉男は、残念ながら故障による別メニュー調整(主に室内練習)であった。よって、メイン球場で行われる全体練習やフリー打撃には姿を見せず、糸井加入による新鮮な空気を感じることはなかった。

 しかし、これはこれで良かったのかもしれない。これまでの阪神キャンプでは、FAなどで大物選手が新加入するたびに毎度毎度マスコミとファンが大騒ぎし、キャンプ地全体が異様な熱気と興奮に包まれていた。当然、その大物選手も周囲の空気を無意識に察知して、最初から飛ばしすぎてしまう、あるいは肩に力が入りすぎて普段通りの調整ができなくなってしまう、といった阪神ならではの洗礼を浴びることも少なくなかった。

 そんな過去を思うと、糸井の場合は図らずも別メニューになったおかげで、余計な雑音と喧騒から逃れられたとも解釈できる。これが文字通り怪我の功名となって、落ち着いた調整ができるのなら、糸井にとっても阪神にとっても大きなプラスだろう。

2年目の慣れが見える金本監督

 また、落ち着いたという意味では、2年目を迎えた金本知憲監督もそうだった。

 昨年の金本監督は1年目ならではの過剰な意気込みによる強い衝動があったのか、とにかくノックバット片手にグラウンド内をあくせく動き回るシーンがよく見られ、それはそれで大変な活気とマスコミ受けする派手なシーンを誘発していたのだが、今年はベンチの前や打撃ケージの背後などに静かに仁王立ち(ノックバット片手は相変わらずだが)しながら、選手たちに鋭い視線を送っている姿がやけに目についた。これを2年目の余裕と評したら大袈裟かもしれないが、少なくとも2年目の慣れはあるのだろう。

 以上のことから総括できるのは、今年の阪神キャンプ序盤では糸井と金本監督、すなわちマスコミ注目度の高い二人が不当に目立ちすぎるという、これまでの阪神にありがちだった光景があまり見られなかったということだ。「キャンプに活気がある」というだけでマスコミの大きなネタになってしまいがちな阪神の状況を考えると、この点については好意的に受け止めたい。本来、阪神にとっての最重要ポイントは金本監督や糸井ではなく、昨年から続く若虎たちの成長競走にあるからだ。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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