監督もチームとともに成長しなければ スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(14)
2チーム制がゆえの初めての悩み
12月のある日のメニュー。攻撃強化ということで2つのシュート練習を並行して行う。上段はスペースへの2人のパス交換からのシュート。下段が本文で紹介した3人のコンビでサイドを崩すやり方 【木村浩嗣】
一通り対戦して分かったが、チームのレベルはどんぐりの背比べで、もし1チーム制でやっていたら、おそらく優勝を狙えただろう。2シーズン前、セビージャ市王者になった時には、前線にもタレントがそろっていた。私の仕事はポゼッションサッカーの攻守の基本戦術を教え込むことでほぼ終了。安全に前線までボールを運んでしまえば、あとは子供たちがドリブル突破し、壁パスで崩し、FKを直接決め、空中戦で圧倒的な強さを見せて、圧勝していた。「圧倒的なボール支配→波状攻撃→大量点」という、メッシのいるバルセロナの方程式が成立していた。
だが、今は違う。「圧倒的なボール支配→波状攻撃→ゴールチャンスを外しまくる」という状況で、良いプレー内容をスコアと順位表に反映できない。チームは後ろから、守備から整備するものだが、前まで進んだ段階で手駒が足りなくなってしまった、という状況だ。
個を補うためにパターンを反復練習
コーナーフラッグ付近から見たエクササイズの実践風景。サイドの子(赤)が奥の子(白と黒)へボールを預け、サイドをえぐろうとする瞬間。右端の子はゴール前へ動き、センタリングに備える 【木村浩嗣】
1つの解決策が、ボールを持っているサイドのMFがいったんセントラルMFに預けて、その間にコーナーフラッグ付近に侵入→セントラルMFが送り込んだ深いスルーパスを受けて、センタリング→そのボールをゴール前へ動いたFW、当のサイドMF、後方からフォローするセントラルMFの3人掛かりでシュートしてネットを揺らす、というシナリオである。1人でシュートに持ち込む技術はなくても、3人掛かりなら何とかなるだろうということだ。
シナリオも配役も立ち位置もきっちり決まっている。「用意! スタート!」の掛け声でリハーサルを繰り返すというのは、サッカー監督ではなく映画監督の仕事のようである。しかし、サッカーの本番はすべて即興だという点が決定的に違う。試合ではこのエクササイズと100%同じ状況が再現されることはなく、似たような状況が現れるだけ。よって、この練習の最終目的は反復でパターンを覚えることではなく、似たような状況で応用できるようすることである。
監督ができるのは「ボールを預ける→スペースへ走り込む→スルーパスを送り込む→マイナスのセンタリング→シュート」という3人のコンビネーションを確立することだけで、試合のどこで出すかは彼ら任せということになる。こういう流れの中の攻撃パターンを3つくらい用意し、再現性がもっとあるセットプレーのパターンも3つくらい用意する。もちろんその間も個人技のレベルアップは休まない。
グアルディオラはメッシのいないバイエルンという現実に直面して頭を抱えたらしいが、私の挑戦はロベルト・レバンドフスキやアリエン・ロッベン、フランク・リベリーもいない中で攻撃力をアップすること。バイエルンはグアルディオラを監督として成長させたが、私も今季のチームとともに成長するしかない。