表参道でバスケ観戦がデートコースに―― 「SR渋谷×青学大」に見る新たな可能性

大島和人

大学キャンパスでのBリーグ公式戦

サンロッカーズ渋谷がホームゲームを開催している青山学院記念館 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 青山学院記念館。それがBリーグ・サンロッカーズ渋谷(SR渋谷)のホームアリーナだ。つまり大学のキャンパス内にある体育館で公式戦が行われている。バスケットボールファン、関係者が想像していないサプライズだった。

 9月22日のBリーグ開幕を前に、各クラブの新チーム名が発表されたのは今年4月のこと。「日立サンロッカーズ東京」の新名称は「サンロッカーズ渋谷」に変わっていたが、その時点でホームアリーナは未発表だった。しかし“渋谷”とあるからには代々木第二体育館をイメージするのが自然だった。

「代々木第二は5000人がクリアできないのではないか?」(編注:Bリーグ参入にはホームアリーナの観客収容人数5000人以上の条件がある)。そこが気になった筆者は、会見の席上で大河正明チェアマンに対してこう質問を切り出した。「渋谷とあるので代々木第二になるのだと思いますが……」

 これに対して大河チェアマンは即座に「代々木第二と決まっているわけではありません」と否定した。そして5月31日、SR渋谷がホームアリーナとして青山学院大の施設を使うことが正式に発表された。

超好立地を生かせるか!?

 10月8日と9日のB1第3節、SR渋谷初のホーム戦が開催された。青山学院記念館は渋谷駅から宮益坂を上がって徒歩10分、表参道駅からは徒歩3分という立地にある。渋谷区は神宮外苑、代々木とさまざまなスポーツ施設を擁する地域だが、表参道近辺はファッションエリアだ。東京メトロの改札を出る乗客の7割くらいは女性で、しかも自信に満ちた雰囲気の「カッコいい女性」が目立つ。そこは「東京の中の東京」とでもいうべき、時代の先端を行く一帯だ。

 開幕10日前のティップオフカンファレンスで、ベンドラメ礼生は「渋谷でのBリーグ観戦を定番のデートにしたい」と抱負を口にした。言い換えるなら「表参道でデートするような男女が見に来るクラブにしたい」という意味だろう。もしアリーナが野暮な、寒々しい空間になっていたら、カップルは寄り付かない。

 集客、娯楽性をおおよそ考慮していない教育機関の施設を、プロバスケがどう活用できるのか? 果たしてそこがデートをしたくなるような場になっているのか? Bリーグだけでなく、他競技も含めたヒントを得るために、富山グラウジーズ戦が開催される青山学院大のキャンパスへ足を運んだ。

 表参道駅のB1出口を出て、国道246号線を渋谷方向に進むと、すぐに大きな建物が見えてきた。国道246号に面してすぐ。国連大学の向かいに青山学院記念館はある。ブランドショップが建っていても不思議の無い、超好立地だ。

クラブの強みは変わらず

キャラの立ったマスコットは人気を博しており、SR渋谷の強みでもある 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 アリーナの外装はクラシカルだった。青山学院記念館の竣工は東京五輪と同じ1964年で、築年数は50年を超える。しかし中に入ると雰囲気は一変。シートや幕、ごみ箱と可能な限り黄色で統一され、「ホームの雰囲気」が作られていた。2階席の椅子もすべて黄色で統一されていたが、これは幸い元から黄色だったとのこと。開幕週は黄色のサンロッカーズTシャツを2000枚配布したということもあり、客席も富山ブースターの赤を除けばほぼ黄色く染まっていた。

 1階席は軽量鉄骨の仮設スタンドだが、椅子は背もたれと若干のクッションもある高質なものが使われている。パイプ椅子やベンチシートではなくて安心した。これなら窮屈感はないし、デートにも対応できるだろう……。

 試合が始まれば、間違いなく非日常のエンターテインメント空間になっていた。ホームのSR渋谷が富山に79−61、76−52と連勝したこともあり、会場は総じて心地よい陶酔感に包まれていた。青山学院記念館の観戦環境について言えば、臨場感は一般的な体育館よりむしろ優れている。コートのギリギリまで客席があるし、音響も素晴らしかった。大型のスピーカーが四方の櫓(やぐら)に設置されており、それは音楽の屋外フェスティバルなどでも使われているものと比べてもそん色はない。天井の低さも相まって、しっかり反響を計算したサウンドが作られていた。

 サンロッカーズのDJを10年に渡って務めているのがパトリック・ユウ氏。ラジオやナレーションでも名の知れた方だが、東京ヤクルトスワローズのスタジアムDJとしてお馴染みだ。彼はしゃべりのプロ、エンターテイナーであるだけでなく、「誰が決めて誰がアシストをした」「どういう反則があった」という情報を的確に入れるバスケの知識も持っている。Bリーグでも最高峰のスキルを持つ、やり手のベテランDJがSR渋谷にはいた。

 サンディー、キャンディー、ウィンディーのマスコット陣も変わらない。お客にサプライズを仕掛けたり、アップ中の選手にちょっかいを出したりという“アメリカンスタイル”はかなりエッジが効いている。さまざまな競技でさまざまなマスコットを見てきたが、これだけキャラの立ったマスコットは東京ヤクルトの「つば九郎」と大宮アルディージャの「ミーヤ」くらいだろう。DJとマスコットは昨年までと同じだが、そこは変える必要のないこのクラブの強みだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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