表参道でバスケ観戦がデートコースに―― 「SR渋谷×青学大」に見る新たな可能性

大島和人

“ご新規様”も“古参ファン”も好評価

バスケ観戦初心者の3人組も大満足の表情(右から矢口俊貴さん、岡田知也さん、大友涼輔さん) 【大島和人】

 お客さんはやはり若い人が多かった。たまたま話を聞いた20代の男性3人組は、1人が初バスケ観戦で、2人は代々木第一体育館で行われた「アルバルク東京vs.琉球ゴールデンキングス戦」以来という“ご新規様”だった。普段は神宮球場の外野席で東京ヤクルトを応援していて、パトリック・ユウさんの縁もあってサンロッカーズ戦に足を運んだとのことだった。Bリーグ開幕戦の感想を聞くと「最高でした」と一言。

 日立時代からサンロッカーズの試合に足を運んでいた中野太陽さん(仮名)に聞くと「『日立のチーム』から『渋谷のチーム』に転換させようとしているんだなと感じた。次に気づいたのがアウェーからのブースターの多さ。周りを富山ブースターに囲まれ、すごい熱気で応援するものだから肩身が狭かった」とプロ化と渋谷移転の感想を語ってくれた。

 彼はアリーナに入ってまず「日立の企業応援団がいない」ことに気づいたという。NBL時代は社員が応援の音頭を取り、盛り上げるチームが多かった。しかしSR渋谷はもはや日立のチームでない。現状だとサンロッカーズにJリーグのようなサポーター集団は存在しないようだ。バスケは会場のDJがうまく乗せるので、コールリーダー的な存在がいなくても物足りなさは感じない。

 大学っぽさがあるとすれば、アルコールの持ち込みと販売が禁止されていることだろう。ただし何しろここは渋谷。試合後に飲めるお店は他の会場よりも充実している。

 率直な感想として、青山学院記念館の2時間プラスアルファは楽しかった。SNS上などの感想を見ても、SR渋谷のホーム開幕戦は総じてポジティブなインパクトを来場者に与えたようだ。

“完成形”ではないが画期的

青山学院大OBでもあるキャプテンの広瀬も、在学時からの変化を感じているようだ 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 SR渋谷の広瀬健太キャプテンは青山学院大のOB。自らの入学式や卒業式が行われた会場が、今度は職場に変わった。学生時代の練習場は相模原キャンパスがメーンだったものの、土日は渋谷で練習することもあったという。夏は大きな扇風機を置いて練習していた体育館が、今は空調完備。お客さんが入らないバックヤードも「シャワールームやトイレがキレイになっていた」のだという。外装は変わらなくても「中身は僕らがいたときより全然良くなっている」と選手目線で感想を語ってくれた。

 そして彼に会場の雰囲気についても問うと「観客席が黄色で埋まっているというのは、今まで無かったこと。あれはやっていてワクワクします」と顔をほころばせていた。

 ただし、今の青山学院記念館がアリーナとして“完成形”ということではない。8日、9日とも満席状態だったが、入場者数は2624名と2503名。用意されていた座席数も3000席とのことで、B1の基準として定められている5000人には程遠い。

 普段は学生が使う施設である以上、試合が終わったら備品を速やかに撤去する必要がある。しかし施設の配置と使用条件に制約があり、現状では限られた時間内に5000席の設営、撤収を行うことが難しいという。

 映像装置が無いのもマイナスポイントだ。大型スクリーンに映し出す形のプロジェクターは保有しているとのことだが、映像のクオリティーが不十分という判断から、今シーズンは導入していない。

 ただ、そもそもプロが大学の施設を使うこと自体が画期的な話で、まずは要求よりも大学の協力に感謝することが筋。そういった課題はSR渋谷だけでなく、渋谷区と青山学院大が、各々のメリット&デメリットを考慮しながら徐々に解消を進めていくべき慎重を要するテーマだ。

可能性を秘めたコラボレーションに

チームカラーの黄色で埋め尽くされた。大学との共同プロジェクトは、スポーツ界に新たな可能性をもたらすかもしれない 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 一方で大学施設の活用はBリーグにとって、SR渋谷にとどまらないトレンドになる可能性を秘めている。青山学院記念館のみならず、都内の各大学は戦後の早い時期に建てた大講堂が老朽化している。例えば慶應義塾大の日吉記念館も1962年の竣工だ。早稲田大は戸山キャンパスの旧記念会堂をすでに取り壊し、2019年の完成に向けて新施設の建設を進めている。

 こういった大講堂の新築、大改装にBリーグのクラブが設計から関与し、費用の負担と引き換えに共用するなどの形で、大学とアライアンス(連携)を組む発想があってもいい。

 万単位の学生が通う総合大学には、数千人を収容する大講堂(体育館)のニーズがある。青山学院大や早稲田大のように、山手線内にキャンパスがある大学もある。大学にとっても利のあるプロジェクトであることは前提だが、そういった施設の規模とアクセスはアリーナを整備していく上で生かし得る要素だ。SR渋谷と青山学院大の共同プロジェクトは、日本のスポーツ観戦文化を変える第一歩になるかもしれない。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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