ペップはマンCに何をもたらしたのか? 破壊力を増した攻撃、課題を露呈する守備

エイドリアン・クラーク

今季からマンチェスター・シティの監督に就任したグアルディオラはチームに何をもたらしたのか 【写真:ロイター/アフロ】

 自分たちを輝かしい新時代へと導かせるべく、今年初めにジョゼップ・グアルディオラを説得することに成功した時、マンチェスター・シティは、サッカー界からねたまれる存在になった。エティハド・スタジアムに集うファンに“スリリングな旅”が約束されているに違いない、という期待の兆候は、すでに見えてきている。

 このスペイン人指揮官の改革は、果たしてどのようなものなのか? 現在プレミアリーグ首位に立つチームを、戦術のエキスパートである私、エイドリアン・クラークが分析してみよう。

厳格な姿勢でチームにハードワークを強いる

 玉のような汗を浮かべることもなく大金を稼ぐというのが、過去のシティの選手の姿だった。2015−16シーズンのほとんどを、セカンドギアに入れる程度で、のんびりと過ごしていた面々だ。

 だが、サッカーでの成功という欲望にとりつかれたグアルディオラは、そんな“裕福なご身分”を許しはしない。これこそが、強く求められていたポジティブな変化である。グアルディオラはナイスガイであり、素晴らしい腕を持つ伝達者だ。そして、選手たちには有無を言わせず、自らの指示の遂行を求める男でもある。

 彼のそんな厳格な側面を知らない選手がいたとしたら、ジョー・ハートとヤヤ・トゥーレに対するグアルディオラの容赦ない仕打ち、チームにフィットしないと自身が判断した者を徹底的に排除するグアルディオラの姿勢は、すぐさま強い印象を与えたことだろう。

 今や、チーム内に居場所があって当然という選手はいない。さらなる鋭い感性と集中力を持って、パフォーマンスを披露する。この脅迫観念は、確かな上昇をもたらしている。さらに選手たちは、素晴らしいハードワークを見せている。シーズン開幕早々から、1試合あたりの「走行距離」と「最多スプリント数」で、昨季の最高記録を超える数値をたたき出しているのだ。

 新たなボスは自身の選手たちから、“絶対の関心”を勝ち得ていると言っていい。

新たなるポジションで輝くデ・ブライネ

4−1−4−1で新たなポジションを与えられたデ・ブライネが輝きを放っている 【写真:ロイター/アフロ】

 フォーメーションは昨季の4−2−3−1から、4−1−4−1へと置き換えらえた。バイエルン・ミュンヘンを預かっていたグアルディオラの戦術的実験期間において、おそらく最も機能した形状である。

 焦点が当てられているのは、チームにカウンターアタックを受ける隙を生じさせることなく、「フロント5」に自らを表現する自由を与えることだ。その解へ導く方程式は、前線に5人、後方に5人を配置するタイプのものである。

 前提となるのは、2人のプレーメーカーの配置だ。1人以上の「背番号10」タイプの選手を起用することは、これまでのチームでのグアルディオラの治世において、切り札の一つとなってきた。

 ケビン・デ・ブライネとダビド・シルバには、いけると思った時には外側を突くことを奨励し、一方でストライカーのセルヒオ・アグエロを継続的にサポートすることも求める。シティは中央のゾーンに最も破壊力があるこの3人のスターを擁することにより、相手に大混乱を巻き起こしてきた。

 これに対処するのは難しい。例えば9月10日(現地時間)に行われた第4節のマンチェスターダービー(2−1)では、マンチェスター・ユナイテッドのMFやDFは誰1人として、ボックス内へ侵入するシティの選手たちを追跡するという責任を全うできなかった。

 この新たなるポジションは、教育を施されたデ・ブライネにぴったりだ。

 彼の1試合平均3.5本というシュート数は、昨季の同2本と比べて2倍近い数値だ。同様に1試合平均のドリブルの成功数も2倍近くなっており、チームメートへ提供するチャンスの創出数でも、昨季を上回っている。デ・ブライネが負傷で欠場すると、シティの危険度はとたんに色あせる。

高い位置でのボール奪取を目指す

チームはかつてないほどシステマチックかつアグレッシブになった 【写真:ロイター/アフロ】

 ボールポゼッションを狙う時には時折、計画的に、普段とは違う2−3−2−3のフォーメーションへと移行する。両サイドバック(SB)のポジションを上げて中盤中央に配置し、ビルドアップのプレーに参加させる。これには2つの意味がある。(1)相手チームに混乱を引き起こす、(2)カウンターを狙われたときのためにピッチの縦軸を強化しておく、というものだ。

 興味深いことに、このプロトタイプとなるスタイルが試されたのは、格下相手との試合のみである。これまでのところグアルディオラは、もっと冷静さを持って戦う相手との試合で用いるのは、リスクが高すぎるとみているようだ。だが、それもまた、シーズンが進むにつれて変化していくかもしれない。

 もう一つの大きな変化は、シティのプレスのかけ方だ。これまでのエティハドのどの時代より、システマチックかつアグレッシブになった。また、成果を出せることも実証済みだ。グアルディオラ率いる選手たちは、素晴らしいスピードと効率性をもって高い位置でボールを奪い返してきた。

 シティのプレッシングは、指揮官がバルセロナを率いていた頃のレベルにはまだ到達していない。だが、ボールを素早く奪い返そうというチームの意思は、すでにこれまで披露してきたとおり、誰の目にも明らかだ。

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著者プロフィール

1974年生まれ。アーセナルでプロ選手のキャリアをスタートさせ、94年から2年間でファーストチームの9試合に出場。その後は移籍を繰り返してさまざまなカテゴリーを渡り歩き、2001年に記者に転身。現在はアーセナルTVやBTスポーツなどで活動。プレミアリーグ公式サイトでも戦術に関するコラムを執筆し、シンガポールや日本でも寄稿し、世界で活躍する。

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