ペップはマンCに何をもたらしたのか? 破壊力を増した攻撃、課題を露呈する守備

エイドリアン・クラーク

最終ラインがプレスを受けるとパニックに陥る

トッテナム戦では高い位置からプレスを受け、シティのDFはパニックに陥った 【写真:ロイター/アフロ】

 一方で、シティにも弱点はあるはずだ。実際、ここ数週間において、彼らが困難を抱えていることが露呈してきている。チャンピオンズリーグ第2節のセルティック戦(3−3)とリーグ戦の第7節トッテナム・ホットスパー戦(0−2)では、パスを出そうとするシティのバックラインに圧力をかけることで優位に立てることが証明された。

 クラウディオ・ブラボとシティの4バックは、相手が引いてパスを回させてくれる間は素晴らしく落ち着いている。だが、“ちょっかい”を出され始めるとパニックに陥り、危険なエリアでボールを失っていた。

 グアルディオラがチームに求めるのは、試合の完全支配だ。だからシティのやり方を妨害する最適な方法は、選手に嫌がらせをして苦し紛れのロングパスを強いることだ。

 今回の対戦でスパーズは、シティの選手に1人たりとも落ち着いてボールを持たせることをしなかった。その敵がい心の発露の連続に、シティのスターFWは誰1人として、試合の足掛かりさえつかむことができなかった。

適材を欠く守備的MFとSB

 守備面に関しても、連係の弱さが見て取れる。

 中盤の中央に2人のプレーメーカーを置く弱みは、守備的MFのフェルナンジーニョに大きな負担がかかることだ。このブラジル人の運動能力には強い印象を抱いているが、世界的エリート選手たちを相手に、4バックの前で頑強な盾となるには不十分ではないかと危惧(きぐ)する。フェルナンジーニョのポジショニングは緩むことが考えられ、ピッチの重要なエリアのスペースがオープンなままにされる可能性がある。代役候補のフェルナンド・レゲスについても、この仕事を適切にこなすにはスピードが足りなすぎる。

 GKのブラボは素晴らしいシュートストッパーだが、ボックス内にクロスが集中した時にも自身の領地を支配し続けられるだろうか? これには大きな疑問符がつく。

 SBに関しては、パブロ・サバレタはもはやトップレベルで生き抜くだけのスピードがない。最近でも、トッテナムのソン・フンミンのスピードに蹴散らされていた。バカリ・サニャには速さがあるが、グアルディオラの求める典型的なSBとなるにはダイナミズムが欠けている。ガエル・クリシーは1対1において、素晴らしいDFであるとは言えない。ユーティリティープレーヤーであるアレクサンダル・コラロフは、荒っぽいアタッカーを嫌う。このセルビア人の輝くばかりの左足はボールを持てば、本当に価値あるものだが、クロスやフィジカルの強いFWは苦手とする。

 プレミアリーグの第7節までを終えて、シティは7失点しか喫していない。だがこれは、守備面の技術のおかげというよりも、ほとんどの試合を支配してきた結果である。シティの後方の選手たちは、これまで直面した全ての試練で、ぐらつきを露呈してきたのだ。

改革はまだスタートしたばかり

ジグゾーパズルは完成していない。ペップの改革は始まったばかりだ 【写真:ロイター/アフロ】

 攻撃に関して、称賛すべき点はすでにたくさん見えている。スピードがあり、流動性があり、ピッチの幅をフルに使う。彼らが生み出してきたサッカーには、見るにあたって最高のものがあった。

 シティのSBは以前ほどにはオーバーラップしないようにと注文されている中で、ウインガーのラヒーム・スターリングにはさらなるスペースが与えられ、新たな芽吹きが見られる。前述したようにデ・ブライネは格別の存在となっており、アグエロの滑るような動きは、まるで手袋のように新指揮官の哲学にフィットする。

 ジグゾーパズルは、完成していない。だが、それも時間の問題だ。この先2度の移籍市場で、グアルディオラ式の選手インフラが整備される。優先されるのはSBだ。イルカイ・ギュンドアンが最終的に守備的MFのレギュラーに収まることになっても、驚きではない。

 グアルディオラは、グアルディオラである。

 超・知的なこの45歳の指揮官は、カミソリのごとく鋭くサッカーをコントロールするマニアであり、ボール支配を要求し、選手たちにはフルのインテンシティー(プレー強度)を求める。

 過去にも彼のチームがハマった時には、本当に最高の仕事を披露してきた。

 これはまだ、スタートにすぎない。それが事実であるとしたら、プレミアリーグにおけるシティのライバルたちにとっては、深刻に憂慮すべき事態である。

(翻訳:杉山孝)

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著者プロフィール

1974年生まれ。アーセナルでプロ選手のキャリアをスタートさせ、94年から2年間でファーストチームの9試合に出場。その後は移籍を繰り返してさまざまなカテゴリーを渡り歩き、2001年に記者に転身。現在はアーセナルTVやBTスポーツなどで活動。プレミアリーグ公式サイトでも戦術に関するコラムを執筆し、シンガポールや日本でも寄稿し、世界で活躍する。

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