失点増加で不安定な戦いが続く鹿島 守備陣が見たその要因とは?

元川悦子

石井監督のリーグ復帰戦でリスタートを切りたかったが……

敵地で勝利を挙げ、石井監督の復帰戦を飾りたい鹿島だったが…… 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 体調不良を訴えて8月27日の第10節、横浜F・マリノス戦(2−2)を休養した石井正忠監督の復帰後、最初のリーグ戦となった9月10日の第11節・柏レイソル戦。ファーストステージ覇者の鹿島アントラーズは敵地で勝利を挙げ、Jリーグチャンピオンシップ(CS)に向けて確かなリスタートを切りたいところだった。

 この日の陣容は、ベテランGK曽ケ端準がいつも通りゴール前に陣取り、最終ラインは9月3日の天皇杯2回戦・カターレ富山戦で負傷した西大伍に代わって伊東幸敏が右サイドで先発した。センターバック(CB)は日本代表に選出されるも、左内転筋の違和感を訴え離脱した昌子源がファン・ソッコに代わって復帰し、ブエノとコンビを組んだ。

 左サイドバック(SB)は山本脩斗が務める。ボランチは小笠原満男が控えに回り、永木亮太と柴崎岳の2人が先発した。2列目は右に成長著しい鈴木優磨、左には土居聖真が入り、赤崎秀平と金崎夢生が2トップを形成するという形だった。

 鹿島としては、相手の助っ人外国人のディエゴ・オリヴェイラ、クリスティアーノを軸とする攻撃陣を封じるところから、慎重にゲームを運びたかった。

「ディエゴ・オリヴェイラ選手を見ていて『何が特長なんだろう』と考えていたのですが、くさびを受けにいっても、すごいと思う部分はなかった。前半は(攻撃の)起点になるシーンもありませんでしたし、自分とブエノの関係も悪くなかったと思います。僕自身、ブエノのカバーができていたし、自分のミスで危ない場面を作られても、ブエノがカバーに入ってくれていました」と昌子は前半の守備に手ごたえを感じていた。

「駆け引きに負けた」鹿島らしくない失点シーン

柏戦の先制点の場面は、実に鹿島らしくない失点シーンだった 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 しかし、後半に入り柏が若きスピードスター・伊東純也を投入すると状況が一変する。後半13分、茨田陽生の縦パスに反応した伊東が右サイドを抜け出してクロスを上げた瞬間、ブエノと伊東幸敏はディエゴ・オリヴェイラに巧みに逆を取られ、一発を浴びてしまった。

「純也がボールを上げる瞬間、DFが前を取ろうとしたので、それを逆手にとって2歩後ろに移動した。それで完全フリーになれたので、あとは合わせるだけだった」とディエゴ・オリヴェイラはしてやったりの表情を浮かべたが、鹿島の守備陣は大きなショックを受けたようだった。

「完全に駆け引きに負けた」と伊東がガックリと肩を落とす一方、昌子も「伊東選手が入ってきて、ああなるのは分かってたいたから、(山本)脩斗君に『極端に縦は切っていいよ』とは言ってたんですけれど……。相手のやりたいことをやられたという感じです」と悔しさをにじませた。実に鹿島らしくない失点シーンだった。

 その6分後にはペナルティーエリアでブエノがクリスティアーノを倒してPKの判定。しかし、ベテラン守護神の鋭い読みが光り、2点目は与えなかった。これで巻き返しの可能性が広がったが、この日の鹿島は最後まで踏ん張り切れなかった。

 後半36分、自分たちの攻撃が中途半端な形に終わり、中盤で奪われたボールを柴崎らが奪い返しにいくも寄せ切れず、小林祐介から右サイドのオープンスペースに走り込んだクリスティアーノに縦パスを出されてしまった。クリスティアーノは豪快なドリブルから右足一閃。これはさすがの曽ケ端も反応できず、スコアは0−2となりこのまま試合は終了。鹿島は石井監督体制でのリーグ戦再出発を白星で飾ることができなかった。

セカンドステージはここまで11試合で17失点

「今日は球際のところで全部負けていた。監督は(続投という)答えを出したわけで、僕たちはそれに応える立場だったのに、勝負弱さが出てしまった。自分たちが戦う姿勢を出せていないことに情けなさを感じました。監督が戻って、天皇杯に勝ったからいいわけではないのに、それでOKみたいな雰囲気があった。それが今の僕達の弱さです。優勝争いをして、セカンドステージ、年間王者の座を奪いにいくチームのやることではないと思います」と昌子は試合後の取材ゾーンで自戒を込めて言った。

 彼がこれだけ厳しい発言を繰り返すのも、常勝軍団の絶対的ベースである守備の踏ん張りが利かないことが大きい。川崎フロンターレの失速も追い風となり、ファーストステージを制した後、彼らの守りは急激に崩れ始めた。

 7月2日のセカンドステージ初戦・ガンバ大阪戦(1−3)を皮切りに、ここまで11試合で17失点を喫しているのだ。この数字はセカンドステージ最少失点の浦和レッズ、G大阪の約2倍(両チームの失点数は9)。ファーストステージは17試合を10失点の最小で乗り切った鹿島だけに、いかに失点が大幅に増加しているかがよく分かる。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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