GLから一転、本来の力を示したベルギー プレッシャーを吹き飛ばし準々決勝へ

中田徹

大きな期待を寄せられていたベルギー

大会前から「もっとも優れたタレントをそろえたチーム」とベルギーに対する期待は高かった 【Getty Images】

 更衣室を出た選手たちが、ピッチに入る直前、スタジアム・ド・トゥールーズの壁には“Nothing TOULOUESE(ナッシング・トゥールーズ)”という張り紙が貼ってあった。“失うものは何もない(Nothing to lose)”とかけたダジャレである。しかし、ベルギー代表にとっては、あまり笑えない張り紙だった。もし、ベルギーがユーロ(欧州選手権)2016の決勝トーナメント1回戦でハンガリーに負けるようなことがあったら、失うものは大き過ぎたはずだった。

 ベルギーのグループリーグでの戦いぶりに、メディアは満足していなかった。あまり実力を正確に表さない指標とは言え、今のベルギーはFIFAランキングで2位につけている。GKからFWまで、スタメンからベンチまで、ベルギーの選手層は厚く、今やバンサン・コンパニが負傷離脱していることすらみんな忘れてしまうほどだ。

「今回のユーロにおいて、ベルギーはもっとも優れたタレントをそろえたチームの一つである。その陣容にふさわしいサッカーをベルギーはしなければならない。しかし、マルク・ウィルモッツ監督率いるベルギーは、2年前のワールドカップ(W杯)ブラジル大会からあまり進歩が見られない」というのが、グループリーグを終えた後のメディアの論評だった。

 もともと“結果”を出すことに対する期待が高かった今大会のベルギーだったが、決勝トーナメントで「死の山」を免れたことから、さらにチームへのプレッシャーは高まった。少なくとも、ラウンド16のハンガリー戦、続く準々決勝のウェールズ対北アイルランドの勝者(結果は1−0でウェールズが勝ち上がり)との試合を、ベルギーは「本命」の立場で戦うわけだ。ここで負けたら、ベルギーには失望しか残らない。選手たちが、「ここまで来たら、どの国も強いチームだけれど、組み合わせに恵まれたことは否定できない」と口をそろえていたが、ウィルモッツ監督は「(決勝トーナメントの)初戦がスペインだった方が、まだ失うものはなかったのに」とこぼすほどだった。

ハンガリー戦で訪れた”アザール・タイム”

ハンガリーを相手にアザールが躍動。チームの勝利に大きく貢献した 【Getty Images】

 そんな高まったプレッシャーの中で行われたラウンド16で、ベルギー代表はハンガリーを相手に素晴らしい試合を披露した。立ち上がりから主導権を握る積極的な戦いぶりに、テレビ実況のフィリップ・ヨースは、「ベルギーはしっかりこの試合の“本命役”を務め、試合を完全に支配しています」とコメントしていた。前半のベルギーはトビー・アルデルワイレルドの1点にとどまったが、ハンガリーに息をつかせぬパス回しから攻撃を仕掛け続け、実に16本ものシュートを浴びせていた。

 グループリーグでのベルギーは「守」から「攻」への切り替え(つまりカウンター)が光っていたが、ハンガリー戦では「攻」から「守」への切り替えも早かった。とりわけ、エデン・アザールのプレーが素晴らしかった。45分、アザールはハンガリーの右サイドバック(SB)、アダーム・ラングのオーバーラップにしっかり付き、自陣の深い場所でボールを奪い返すと、直後のデュエルにも勝ってドリブルで前進し、ロングカウンターの起点となった。献身性、フィジカルコンディションの良さ、ドリブルの力強さなど、この日のアザールの良さがいっぱい詰まったシーンだった。

 芝の根付きが悪いのか、スリップする選手が続出した中、アザールの足の踏み込みはしっかりピッチをつかみ、相手のボールを奪ってはマークを簡単に外してドリブルを加速させた。この日、アザールが成功させたドリブル突破は13本に上ったという。

 やがて”アザール・タイム”が訪れた。

 78分にケビン・デ・ブライネの右CKをハンガリーDFがクリアし、アザールがそれを拾いスルーパス。しかし、それは味方のオフサイドポジションを利用したトリックだった。アザールは自らのスルーパスに走り込んでクロスを入れ、ミシー・バチュアイのゴールを見事にアシストした。続く80分には、ベルギー得意の恐怖のカウンターから、アザールが仕上げのシュートを決めて3−0。後半に入ってからハンガリーの反撃を受け、いつ同点になってもおかしくない苦しい展開だったが、アザールの妙技がこの試合の決着をつけた。ベルギーは91分にもカウンターを炸裂させ、ヤニック・フェレイラ・カラスコがダメ押しゴールを決めると、4−0でハンガリーに快勝した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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