シャラポワ薬物違反から見える問題点 厳しさ増すテニス界のドーピング検査

内田暁

会見で薬物違反について発表するシャラポワ。自身の過誤を認めた 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 黒いシャツに、きれいに整えられたブロンドの長髪。そしてピンと伸びた背筋――。
 いつもと変わらず凛とした立ち姿のマリア・シャラポワ(ロシア)は、どこか殺風景で華やかさや温かみの感じられぬ会見室のマイクの前に立つと、マイクの角度を微調整し、いくぶん緊張した面持ちで話し始めた。

「私は国際テニス連盟(ITF)から、先の全豪オープンで行われたドラッグテストにおいて、陽性反応が出たとの通達を受け取りました」

 そして、続ける。

「全面的に、この件に関する自身の過誤を認めます」

「自分の無責任さが招いたこと」

「重大発表を行うため、会見を行います」

 シャラポワの代理人がそのように発表したのは、3月7日(現地時間)にロサンゼルスのホテルで行われた衝撃の会見の、わずか24時間ほど前のことであった。昨年の中盤、シャラポワがケガで大会を欠場することが多かったこと、そして今年1月の全豪オープン以降も腕の負傷を理由に試合に出ていなかったことなどから「会見は恐らく、引退発表の場であろう」……そのような憶測が主流を占めた中での、青天の霹靂(へきれき)とも言える告白である。

 会見でのシャラポワ自らの発言と、その直後に発表されたITFの声明をまとめると、以下が今回の会見に至る経緯である。

・ドーピングテストは全豪オープン期間中の1月26日、準々決勝の試合後に行われた。
・サンプルはWADA(世界アンチ・ドーピング機関)が定める研究機関に提出され、検査の結果、WADAが禁止薬物に定める“メルドニウム”の陽性反応が検出された。
・3月2日にシャラポワへの通達が行われ、シャラポワもメルドニウムを摂取していたことを認めた。
・処分が執行されるのは3月12日から。出場停止期間などの具体的な内容は、まだ決まっていない。

ドーピングテストが実施されたのは全豪オープン準々決勝の試合後。シャラポワはメルドニウムが禁止薬物リストに記されたことを知らなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 ただ会見でのシャラポワが強調したのは、今回検出されたメルドニウムがWADAの禁止薬物リストに記されたのは、今年の1月1日からだということ。そしてシャラポワは、メルドニウムを「過去10年に渡り、正規に処方されたものを摂取してきた」ということだ。

 メルドニウムには血液の循環を良くする効果などがあり、シャラポワは10年前に「家族かかりつけの医師の勧めにより」、この成分の入った薬を服用するようになったという。当時のシャラポワは体調が優れぬ日が多く、また血縁者に糖尿病を患う人が多いことなどから、その対処として飲み始めたのだと説明した。

 もちろんWADAも、何の通達もなくリストを更新したわけではない。昨年末の時点で選手たちには、Eメール等で「来年からリストが変更になること」は通達しており、シャラポワもそのメールが届いたことは認めている。ただ彼女は、メールにリンクされていた新しいリストを「確認しなかった」と述べ、その件に関しては「自分の無責任さが招いたこと」と全面的に自らの非を認めた。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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