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シャラポワ薬物違反から見える問題点
厳しさ増すテニス界のドーピング検査

オフの日でもWADAの監視下に

選手をオフの日でも監視下に置くなど、WADAの要求は年々厳格さを増している
選手をオフの日でも監視下に置くなど、WADAの要求は年々厳格さを増している【写真:ロイター/アフロ】

「ファンを失望させてしまったこと、そして私が4歳からやってきた愛する競技を汚してしまったこと……その全ての責任は、私にあります」


 毅然(きぜん)としつつも動揺を抑えきれぬその声に、「なぜあなたほどの人が、そのような不注意を犯してしまったのか?」との思いは禁じえない。ただ、ドーピングチェックに関し選手に求められる要求は年々厳格さを増し、テニス選手たちは試合と練習、そして町から町、国から国への移動で埋め尽くされる日々の中で、多くの煩雑な手続きや事務的処理をこなさなくてはならないのも事実だ。なぜなら選手たちは、大会期間中はもちろん、試合のない“オフ”の日でも、言ってみればWADAの監視下にあるからである。


 例えばWADAとITFが定められる“テニスアンチドーピングプログラム”には、“ウェアアバウツ(WhereAbouts)プログラム”と呼ばれるものがある。このプログラムの対象選手に選ばれた者(多くのトップ選手が相当する)は、向こう3カ月間の自分の全行動予定を、ITFに報告しなくてはいけない。それは、出場予定大会や滞在先のみならず、毎日の予定を実に1時間単位で事細かに記さなくてはならないのだ。選手たちはこの予定表を年に4回提出し、提出した内容から変更があれば、それも逐一報告する義務がある。なぜならWADAの検査官は、提出されたスケジュールにのっとり、抜き打ちテストを行うからである。そして、検査官が訪れた時に選手がその場にいない場合は警告対象となり、そのような警告が3回に達すると、有無も言わさず出場停止処分が下されてしまうのだ。


 また、このテストは抜き打ちという性質上、深夜や早朝に行われることが多く、そのことは多くの選手たちの不評を買ってもいる。アンディ・マリー(イギリス)はかつて、ウィンブルドンで敗れた翌日の早朝5時に検査官が自宅を訪れたことに、不快感をあらわにした。クルム伊達公子(エステティックTBC)は深夜の訪問を受けた不満をブログにつづり、セリーナ・ウィリアムズ(米国)に至っては、早朝に自宅敷地内に立ち入る検査官を不審者と思い、警察に通報する事態まで起こしている。WADAのドーピングチェックとはこれほどまでに厳格であり、トップ選手になればなるほど、ロールモデル(模範)としての対応が求められる。


 シャラポワはこれまで、その役目を完璧にこなしてきたはずなのだが……。

「もう一度、試合の場に戻りたい」

シャラポワは「このような形でキャリアを終えたくはない」と、処分解除後の復帰に意欲を見せている
シャラポワは「このような形でキャリアを終えたくはない」と、処分解除後の復帰に意欲を見せている【写真:ロイター/アフロ】

 2004年ウィンブルドンでセンセーショナルに優勝し、一夜にしてテニスの枠を超えたスーパースターとなってから、12年――。当時17歳だった少女も、今年4月で29歳を迎える。キャリアの終焉(しゅうえん)は確実に迫りつつあり、今回の会見前にも引退の憶測が飛んだ。


「もし引退発表をするとしたら、決してロサンゼルスのダウンタウンのホテルで、お世辞にも趣味が良いとは言えないカーペットの上でやったりしないわ」


 会見で、寂しそうな笑みを浮かべて口にしたシニカルなジョークは、そんな周囲の気配を察した彼女の、精いっぱいの強がりと“シャラポワらしさ”であったろう。だが、一人のアスリートとしての純粋な本心と祈るような希望(そして恐らくは、ほとんどのテニスファンの切なる願い)は、次の言葉にこそ込められている。

 

「とんでもない過ちを犯してしまいました。でも、このような形でキャリアを終えたくはない。機会が与えられるのであれば……もう一度、試合の場に戻ってきたいんです」

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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