鳥谷の連続出場がもたらすモヤモヤ感 金本監督に求められる決断のとき

山田隆道

チームのためにはフルイニングに終止符を

丸4年にわたり、フルイニング出場を続けている鳥谷(左から3人目)。毎試合最後まで出場を続ける主将がベンチに下がる光景は今季見られるのだろうか? 【写真は共同】

 私の個人的見解では、ショートという重要ポジションにおけるフルイニング出場は、チーム全体にとっては一利もないように思う。もっともレギュラー争いは実力主義なのだから、鳥谷が元気なら無理にスタメンを外す必要はないだろうが、大差のついた試合の終盤でも鳥谷のフルイニングにこだわるのは、数年後を見据えて若いショートに経験を積ませる場を奪うことになるだけだ。チームの新陳代謝を悪くするだけだ。

 さまざまな意見があることは百も承知だが、このフルイニング問題を正当化する意見の中では、個人のモチベーション維持に関するものが多い。長年それを継続してきた鳥谷だけに、記録が途切れるとメンタル面に悪影響が出るのではないかという懸念である。

 しかし、それもどうなのだろう。鳥谷は2014年オフにMLB移籍を目指してFA宣言をしているのだから、あの時点で本人がいったん記録に見切りをつけているはずだ。その件を持ち出すと、少なくともフルイニング出場については正当化できる理由がなくなったのではないか。当たり前だが、首脳陣が選手に気を遣うというのは正当な理由ではない。
 ましてや、鳥谷はチームの主将という役割も球団から与えられているのだ。つまり、自分のことだけでなくチームのことも考えて野球をするということである。そういう意味では、若いショートに経験を積ませることもチームのためだろう。

今季こそが記録ストップの好機

 こういった鳥谷のフルイニング問題を考えると、いろいろな意味で金本監督の判断に注目してしまう。現役晩年の彼を覚えている方も多いだろう。肩を故障し、満足にスローイングができなくなったにもかかわらず、連続フルイニング出場を継続していたことで大きな問題を生んだ。個人記録を優先しすぎだとか、首脳陣が選手に気を遣いすぎだとか、あのころ飛び交った数々の批判をもっとも痛感したのは、他ならぬ金本監督自身のはずだ。
 そして、当時の聖域化されたレフト・金本を、守備範囲を広げることで懸命にフォローしていたのがショート・鳥谷だったことにも因縁めいたものを感じる。あの奇妙な状況を揶揄(やゆ)して、当時の鳥谷は「ショフト」と呼ばれていたものだ。

 あの経験があった上で、今季の金本監督と鳥谷の鉄人コンビはフルイニング問題についてどう考えているのか。金本監督がかつて守ったレフトと鳥谷のショートでは、記録が途絶えたときの危険度が大きく違う。レフトなら急に穴が開いたり世代交代があったりしたとしても、新たな選手は見つかりやすいが、内野の要であるショートは難しい。いわゆるリスクマネジメントにおいても、ショートのフルイニングには利を見出せない。

 キャンプ中、例年以上に精力的な鳥谷と、そんな鳥谷越えを目指して必死に汗を流す北條を見るにつけ、もしや今季こそが記録ストップの好機なのではないかと思えてくる。鳥谷が完全に衰えてからではなく、たとえば好調のときにあえて、大差がついた試合終盤でベンチに退くなどして若いショートに試合経験を積ませる。そうすれば、個人記録よりもチームの未来を優先させた自己犠牲的な判断として、昨今の球界流行語である“男気”というストーリーを作ることができる。鳥谷のプライドは好調時のほうが守られる。

 スター選手への過剰な配慮と、それによる新陳代謝の停滞は、近年の阪神を覆っていたモヤモヤの要因のひとつだ。そういうアンタッチャブルな空気を打破することが金本監督の掲げる「超変革」なら、その核は「鳥谷のフルイニングしばり」なのではないか。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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