必要とされ、新境地を開きつつある本田 ダービーであらためて示した自らの価値

片野道郎

ミランサポーターから受けた大きな拍手

試合後、ミランサポーターにあいさつをする本田圭佑。交代時には大きな拍手が降り注いだ 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 ミランが3点をリードして迎えた、1月31日(現地時間)のインテルとのミラノダービーの後半43分、交代を告げられてピッチを後にする本田圭佑の頭上に、サン・シーロの観客席から大きな拍手が降り注いだ。このところ本田に対してため息やブーイングを発することがずっと多かったミランサポーターから、これほどポジティブな反応が返ってきたのは今シーズン初めてだろう。

 ミランが3−0で完勝したこの試合、4−4−2の右ウイングとしてスタメン出場し、豊富な運動量で右サイドをカバーした本田の活躍は実際、攻守いずれの局面でも際立っていた。攻撃ではファーサイドへの美しいクロスで、前半35分のアレックスの先制ゴールをアシストしたほか、自陣からの質の高い縦パスでカウンターアタックのチャンスを何度も演出。守備に回っても献身的に自陣に、時には最終ラインまで戻って危険なスペースを埋め、アグレッシブなコンタクトプレーで再三ボールを奪うなど、試合から消えることなくチームに貢献し続けた。

 衛星TV局スカイ・イタリアが放映する試合直後の討論番組では、かつて自身も“ミランの10番”を背負ったズボニミール・ボバンが「今日のベストプレーヤーは間違いなく本田。現在のミランのスピリットを体現している」とそのプレーを賞賛したほど。翌日の新聞各紙の採点も、軒並み6.5から7という高評価だった。

 シーズン最初の4カ月はその大半をベンチで過ごし、ピッチ上のパフォーマンスよりもピッチ外での発言でマスコミを騒がせることが多かった本田だが、これでカップ戦も含めて8試合連続のスタメン出場。今やレギュラーの座をしっかりと手中に収め、チームの中で着実に存在感を高めつつある。それと歩調を合わせるように、前半戦を通して不振をかこってきたミランの調子もやっと上がってきた。

試行錯誤するチームで困難な前半戦を過ごした本田

チームが試行錯誤する中、前半戦はベンチで過ごすことが多かった本田 【Getty Images】

 このある意味では唐突とも言えるミランの復調、そして本田の立場の変化は何が原因なのか。それを説明するには、ミランがここまでにたどった歩みを簡単に整理しておく必要があるだろう。

 シニシャ・ミハイロビッチを新監督に迎えた今シーズンのミランは、数年ぶりに積極的に資金を投じて大型補強を行い、過去2シーズン遠ざかっているチャンピオンズリーグへの復帰を目標に掲げて開幕に臨んだ。

 ミハイロビッチは当初、攻撃的なスタイルを望むシルビオ・ベルルスコーニ会長の意向を受ける形で、チームの重心を上げてボールポゼッションで主導権を握る戦い方を打ち出した。しかし、中盤に故障者が続出したこともあって肝心のポゼッションに質が伴わず、攻撃の組み立てが遅い上に中盤でのボールロストが多いなど、攻守のバランスに大きな問題を抱える。内容も結果も触れ幅が大きい不安定な戦いが続き、指揮官はシステムを4−3−1−2から4−3−3に変更。ポゼッションへのこだわりもいったん棚上げしてチームの重心を下げるなど、試行錯誤を繰り返しながら復調への道を探り続けた。

 その中で本田も困難な前半戦を過ごすことになった。昨シーズンまでの右ウイングではなく、本来のポジションであるトップ下でレギュラーを争う立場を手に入れながら、序盤戦の数試合は、まだかみ合っていないチームの中で不本意なパフォーマンスに終始。このポジションに当然期待される得点に絡む決定的な仕事がまったくできないまま、“トップ下失格”の烙印(らくいん)を押されてしまう。

 システムが4−3−3に変わってからは、ピッチに立つのも残り数分の交代出場ばかりとなることが増えた。10月4日には、出場機会がなかったナポリ戦後のミックスゾーンで、日本の記者団に対して「どうして出られなくなったのか分からない。チームがこういう試合をしていて出るチャンスがない方がおかしい」とクラブや監督に対する不満をあらわにして、日本とイタリア双方のマスコミが色めき立つという出来事もあった。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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