必要とされ、新境地を開きつつある本田 ダービーであらためて示した自らの価値

片野道郎

守備における貢献という新たな役割

スタメンに復帰してからの本田はチームに戦術的秩序とバランスを与える脇役としての仕事に徹している 【Getty Images】

 ミハイロビッチがシステムを現在の4−4−2に固定し、やっとチームの基本形が固まったのは、開幕からまる3カ月が過ぎた11月末のこと。ミランは低めに設定した最終ラインと中盤との間隔を狭くした4DF+4MFの2ラインによるコンパクトな守備ブロックで相手の攻撃を受け止め、奪ったボールは手数をあまりかけずに前線に運ぼうとする堅守速攻型のソリッドなチームに変貌を遂げ始めた。

 その中で本田がリーグ戦で12試合ぶりにスタメン復帰を果たしたのはクリスマス休暇直前、2015年最後の試合となった12月20日のフロジノーネ戦のことだった。ミハイロビッチが本田に課したのは、まず守備の局面でしっかり帰陣してブロックに加わり、フィジカルコンタクトの強さを生かしてボールを奪うというチームへの献身。その上で攻撃に転じたらシンプルなパスワークで局面を前に進め、最後の30メートルでは持ち前のクオリティーを発揮してチャンスを演出するという仕事だった。

 それまで中盤右サイドで起用してきたアレッシオ・チェルチ(現ジェノア)やエムバイ・ニアングは、本来FWということもあって守備での貢献度が低いため、よりMF的なプレースタイルと献身性を合わせ持った本田を起用することでディフェンスを安定させ、攻守のバランスを改善するという狙いがあったことは容易に想像できる。つまるところ、攻撃で違いを作り出すよりも、むしろ守備における貢献を期待されての本田の起用ということである。

 実際、このミラノダービーを含めて、スタメン定着を果たして以降の本田のプレーは、ドリブル突破やアシスト、シュートなど個人能力で局面を打開することにこだわらず、組織的なメカニズムの一部として攻守両局面でハードワークすることによって、チームに戦術的秩序とバランスを与える脇役としての仕事に徹している印象が強い。

 昨シーズンの開幕当初、よりFW的なプレースタイルで積極的にフィニッシュに絡んでいくことによって、ゴールという目に見える結果を積み重ねることに優先順位を置いた本田。7試合で6得点を挙げていた当時と比べれば、プレースタイルは明らかに異っている。同じサイドに開いてプレーするのでも、4−3−3のウイングと4−4−2のサイドハーフでは、攻守にかける比重は明らかに違う。前者が攻撃6に対して守備4(時には7対3)だとすれば、後者は5対5、時には4対6で守備の比重の方が高くなってくる。ダービーでの本田は、5対5よりも4対6に近かった。

ミハイロビッチ監督も信頼

ミハイロビッチ監督(右)から信頼を得ている本田。守備で献身的な貢献を果たしながら、徐々に攻撃でも持ち前のテクニックとセンスを発揮し始めている 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 本田はこのダービーを前にして、今シーズン初めてイタリアマスコミのインタビューに答えている。試合前日にスポーツ紙『コリエレ・デッロ・スポルト』と一般紙『ラ・レプブリカ』に掲載されたこのインタビューで、本田は自らのポジションとプレーについて次のように語っている。

「僕は1対1を武器とするプレーヤーではない。ドリブルで敵を抜き去るわけではないし、スピードで敵を置き去りにするウイングでもない。僕はチームのためにプレーする。10年間トップ下でやってきたけれど、セードルフが監督になってからここ2年は右サイドでプレーしている。それに慣れて適応しようと努力している」

 日本代表で攻撃の中核を担う本田を知り、ミランでも同じようにゴールに絡むところでの決定的な活躍を期待するわれわれから見れば、現在の本田のプレースタイルはややもどかしく映る部分もある。しかし重要なのはもちろん、本田が監督とチームに必要とされ、その要求に応えて勝利に大きな貢献を果たしているということの方だ。

 ミハイロビッチ監督はダービーの試合後、本田のプレーを賞賛するボバンの質問に対してこんな答えを返した。 

「本田は信頼に値するプレーヤーだ。日本人的なメンタリティがあるから、要求したことすべてを“働き者の一兵卒”としてしっかりとこなし、そこにクオリティーも加えてくれる。テクニックがあるからボールを失わないし、サイドハーフとして守備の仕事も献身的にこなして攻守のバランスを保証してくれる。もうちょっとゴールを決められるはずだが、その点もこれから良くなっていくだろう」

 ダービーでのアシスト、そしてカウンターアタックに再三絡んだプレーが示しているように、本田は試合を重ねるにつれて4−4−2のサイドハーフという新たな役割を消化し、守備で献身的な貢献を果たしながら、攻撃でも持ち前のテクニックとセンスを発揮し始めている。シーズンはまだ半分を過ぎたばかり。ドリブル突破のような単独プレーではなく、サイドを基点としながら組織のメカニズムの中で周囲を生かして違いを作り出す、攻撃面での新境地開拓を期待したい。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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