ルーニーのすごさもかすむ次世代の台頭 イングランドで期待されるスター候補生

山中忍

ジェラードを彷彿とさせる19歳の新星デル・アリ

トッテナムで今季ブレイク中の19歳デル・アリ 【Getty Images】

 ユーロ(欧州選手権)2016を半年後に控えたイングランドでは、30歳のウェイン・ルーニーに代表での不要説がささやかれている。いきすぎた意見に思えるが、再建中のイングランドに次世代の芽が出始めていることは事実だ。ストライカーとしてはトッテナムの22歳ハリー・ケイン、トップ下には同い年でエバートンのロス・バークリーがスタメン当確と言われる中、攻撃的MFにも19歳の新星が現れた。

 トッテナムで今季ブレイク中のデル・アリだ。

 代表レベルでも、初先発となった11月のフランス戦(2−0)から、国内各紙でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれるインパクトを残した。華のあるミドルシュートで先制ゴールを決め、果敢なボール奪取で追加点への起点となっている。

 イングランド風に表現すれば、アリは自軍ゴール前から相手ゴール前までを持ち場にできる“ボックス・トゥ・ボックス型”(攻守にわたって幅広く動く選手のこと)。体を張って敵の攻撃を寸断し、自ら攻め上がってフィニッシュにも絡むという彼のスタイルは、代表前キャプテンのスティーブン・ジェラード(LAギャラクシー)を彷彿(ほうふつ)とさせる。リバプールが生んだ先代の“ダイナモ”は、アリが「憧れたし、すごく影響された」と認めるセンターハーフの手本でもある。

 リバプールが昨夏に獲得を試みたアリは、下部リーグの実戦で鍛えられてきた。憧れのクラブから誘いを受けても1軍経験を優先し、今年2月にトッテナム移籍が決まった後も期限付き移籍で戻ったMKドンズでの昨季は、主力として出場しチームの2部昇格に貢献した。

 1部よりもフィジカルが重要視される3部のピッチでもまれたアリは、身長188センチにして体重73キロというまだ線が細い体だが、中盤のバトルで力負けせずにエネルギー源となることができる。だからこそ、果敢なプレッシングが前提となるマウリシオ・ポチェッティーノ体制下のトッテナムで、主力の故障で訪れた出場機会をものにすることができた。そして10月には、トップリーグでの経験が10試合足らずにもかかわらず初の代表入りを果たした。

 思えばジェラードも、20歳そこそこでクラブでの1軍定着と代表デビューを果たしている。そして両者は成長への課題も共通している。若かりし頃のジェラードは、ラフなタックルが多く警告が絶えなかった。アリも11月の時点で、通算4枚目のイエローカードをもらっている。

 幸いにも、本人の反応は前向きだ。1試合の出場停止が「敵にとって大きなプラス」と報じられ、ホームでスコアレスドローに終わった第14節のチェルシー戦では、チームに迷惑をかけた反省を強いられたはずだ。処分が解けて2試合目の第16節のウェストブロムウィッチ戦(1−1)では早速、先制のボレーを決めてみせた。

エバートンが流出を警戒する逸材ギャロウェイ

エバートンのギャロウェイはマルティネス監督が「起用するたびに驚かされる」と言う落ち着きをピッチ上で見せる 【Getty Images】

 アリの古巣であるMKドンズは、若手の積極的な登用で評価が高まっている。昨季からエバートンに所属する19歳のDFブレンダン・ギャロウェイも最近の輩出例だ。
 
 5年半ほど前からMKドンズを率いるカール・ロビンソンは、国産タレント育成の必要性を意識している30代半ばのイングランド人監督。ロビンソンの下で10代からプロの実戦を経験してきたギャロウェイは、エバートンのロベルト・マルティネス監督が「起用するたびに驚かされる」と言う落ち着きをピッチ上で見せる。もちろん、サイドバック(SB)としては長身と言える185センチの足元は、技術と機動力も十分だ。

 エバートンでの今季は、故障したレイトン・ベインズの代わりに開幕から最終ライン左サイドで先発を重ね、プレミアでの自信も身につけたようだ。そう思わせたのが、9月12日に行われた第5節のチェルシー戦(3−1で勝利)でのフルタイム出場。それまでは、攻撃参加がぎこちない試合もあった。最終的な適性はセンターバック(CB)とする意見もあり、左SB自体に違和感があったのかもしれない。

 しかし、チェルシー戦でのパフォーマンスに、実力は見られても躊躇(ちゅうちょ)は見られなかった。75%近いパス成功率を記録し、極上のクロスで先制点を演出している。ドリブルで攻め上がろうとする姿まで見られた。本来の守りも、パスカットやシュートブロックを含めて安定していた。メディアでは、今夏にエバートンCBのジョン・ストーンズ獲得に失敗していたチェルシーに対し、「ギャロウェイを狙うべきだった」との指摘があったほどだ。

 当然、エバートンは逸材流失への警戒心を強めている。マルティネスは、12月に入ってベインズが戦線復帰可能となっても、「左SBの人選は競争次第。ブレンダンを10代の見習い役などとは思っていない。クラブとは待遇が改善された契約を結んでもらいたい」と発言。新契約提示を示唆してギャロウェイのやる気をさらに掻き立てると同時に、獲得を狙うビッグクラブをけん制し始めた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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