ルーニーのすごさもかすむ次世代の台頭 イングランドで期待されるスター候補生

山中忍

“サッカー界のアカデミー”出身のオックスフォード

ウェストハムのオックスフォードはファーディナンドと比較されるまでになった 【Getty Images】

 実際に強豪による獲得競争が予想される新世代が、ウェストハムのリース・オックスフォードだ。CBとしても機能する16歳のボランチには、今冬にもマンチェスター・ユナイテッドが移籍金800万ポンド(約15億円)で獲得に動くと言われる。

 オックスフォードは“サッカー界のアカデミー”を自負するウェストハムのユース出身。しばし1軍へのベルトコンベアが止まっていた感のあるウェストハムだが、リオ・ファーディナンド、フランク・ランパード、マイケル・キャリック、ジョー・コール、ジャーメイン・デフォーといったイングラド代表クラスを立て続けに輩出した実積を持つ。

 久々の新作を、今季から指揮を執るスラベン・ビリッチ監督は「クールな奴」と評する。度胸の良さと能力の高さは小学生時代のユース入り当時から。若手登用ではなくベテラン再生で知られるサム・アラダイス前監督も、昨季序盤のリーグカップ戦で、まだ15歳だったオックスフォードをベンチ入りさせていた。後任のビリッチは、グループリーグ突破失敗もあって騒がれはしなかったものの、今年7月、8月のヨーロッパリーグ予選6試合のうち3試合で先発させている。

 そして訪れた、8月9日の開幕節アーセナル戦(2−0)。プレミア最年少記録2位の16歳と237日で先発した若きボランチは、相手プレーメーカーのメスト・エジルに、ワールドクラスの実力の「ワ」の字すら示すチャンスを与えずに勝利に貢献した。かねてからオックフォードへの興味が伝えられるアーセン・ベンゲル監督は、ホームでの完敗後に複雑な心境だったに違いない。

 ウェストハムは、その将来性が過去20年間における“自家製最高傑作”と言われるファーディナンドと比較されるまでになったタレントの育成継続に余念がない。指揮官いわく、9月以降の1軍ベンチどまりも「心身両面でのコンディション管理の一環」。クラブは、遠征による疲労を嫌って今秋のU−17ワールドカップ(W杯)代表メンバー入りも認めなかった。

 その一方では、生のプレーを目にする機会が乏しい状況にもかかわらず、ウェストハムはもちろん、代表キャプテンとしての将来像まで描く向きが増えている。イングランドの人々には、ウェストハムが輩出した1966年W杯優勝当時のキャプテン、ボビー・ムーアへの郷愁もあるのだろう。

 国内ではロイ・ホジソン代表監督自らも、「黄金期さえ予感させるスター候補生たち」の出現を口にしている。次世代の台頭が確認され始めたからこそ、来夏のユーロ優勝が全く望み薄でも代表を取り巻くムードが好転している。

 本来であればあらためて認識されるべき、プレミアでは16歳当時、代表でも17歳当時から現在も戦力であり続けるルーニーのすごさが軽視されるほどに。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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