三浦隆司が“夢の舞台”で防衛戦=11月のボクシング見どころ

船橋真二郎

米国で5度目の防衛戦に臨む三浦隆司

「ラスベガスで試合をすること」が夢だったと話す三浦(中央)が、その舞台に立つ 【船橋真二郎】

「世界チャンピオンになることが夢で、世界チャンピオンになってからの夢がラスベガスで試合をすることでした。本当に夢のような話でうれしかった」

 WBC世界スーパーフェザー級王者の三浦隆司(帝拳/29勝22KO2敗2分)が11月21日(日本時間22日)、米ラスベガスのマンダレイ・ベイ・イベントセンターで5度目の防衛戦に臨む。組み込まれた興行のメインカードが、またすごい。元世界4階級制覇王者のミゲール・コット(プエルトリコ)と元WBA・WBC世界スーパーウェルター級王者のサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)がコットのWBCミドル級王座を懸けて激突するのである。このスター選手同士の一戦は、日本でも話題を呼んだフロイド・メイウェザー(米)対マニー・パッキャオ(フィリピン)に次ぐ2015年の一大イベントであり、世界中のボクシングファンの熱視線が注がれる。そのアンダーカードで日本の三浦が持ち前の強打を存分にアピールできるか。日本ボクシング界にとっては今年最大の大一番となる。

 挑戦者は同級1位で無敗を誇るフランシスコ・バルガス(メキシコ/22勝16KO1分)。150勝12敗のアマチュアキャリアがあり、2008年北京五輪出場の実績も持つ。2010年3月に米国でプロデビューすると、13年8月に三浦と同じサウスポーのブランドン・ベネット(米)との無敗ホープ対決を制し、世界ランク入り。14年7月には元世界2階級制覇王者でやはりサウスポーの強打者ファン・マヌエル・ロペス(プエルトリコ)を3回終了TKOで退け、名前を上げた。

「気持ちが強く、どんどん打ち合ってくるという印象」と三浦が評するように好戦的なタイプ。その分、リスクの高い相手でもあるが「自分とは噛み合って、自然と白熱した試合になるのではないか。打ち合ってくれるのは自分としてもうれしいし、やりやすい」と頼もしい。13年8月には敵地メキシコで初防衛を成し遂げた経験もあり、不安はないと三浦は言いきる。むしろ楽しみのほうが大きい、と。
「勝つことが一番だが、世界中が見ていると思うのでアピールしたいとも少しは考えている。派手な試合をして、最後はKOでしとめたい」

 現在3連続KO防衛中。最近は武骨だったファイトスタイルに柔軟さが加わり、30代にして進化を続けている三浦は常日頃から「相手が立ち上がれないくらいのダメージを与えて、倒したい」と話してきた。勝ち方によっては本場で一躍スターダムにのし上がるチャンス。三浦の拳には今、その可能性が十分ある。

村田が米国で“第2のデビュー戦”

プロ8戦目に臨む村田。米国での試合に「第2のデビュー戦だと思っている」と話す 【船橋真二郎】

 三浦の2週間前、11月7日(日本時間8日)には2人の日本人ボクサーが米国のリングに上がる。

 まず、ラスベガスのトーマス&マックセンターでは、ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太(帝拳/7勝5KO)がプロ8戦目を迎える。

「第2のデビュー戦だと思っているし、フレッシュな気持ちでいる」。いよいよ新たなステップへと歩を進める心境を村田はこう表現した。現在、WBCとWBOの世界ミドル級5位を最上位に主要4団体すべてでランク入りするが、ミドル級はそう簡単に世界挑戦が実現するような階級ではない。ここからは米国のプロモーター、テレビ関係者、ファンに商品価値をアピールし、名前を売るリングとなる。

 その初戦の相手に抜てきされたガナー・ジャクソン(ニュージーランド/22勝8KO6敗3分)は世界的には無名だが、14年1月には3度の世界王座獲得経験を持つ元世界2階級制覇王者のアンソニー・マンディン(オーストラリア)と対戦し、判定に持ち込む粘りを見せている。これまでKO負けが一度もない相手に「KOを狙っていくことに意味がある」と村田。本場のリングにどのような第一歩を刻むのか、注目である。

村田と同じ日にフロリダ州マイアミで試合を行う小原佳太 【船橋真二郎】

 米国東部のフロリダ州マイアミでは小原佳太(三迫/15勝14KO1敗)がIBF世界スーパーライト級指名挑戦者決定戦に臨む。

 現在、13連続KO勝利中と国内、東洋圏で無敵を証明してきた東洋太平洋同級王者は「6月には2週間、ロサンゼルスでスパーリング中心の合宿をして、いい経験になった。それから、この話が来たので流れとしては完璧」と笑顔を見せた。

 対戦相手のウォルター・カスティーリョ(ニカラグア/26勝19KO3敗)は今年4月、全勝を誇るスピードスターのアミール・イマム(米)に判定で敗れたが、7月の再起戦では来日経験もある元世界ランカーのアメス・ディアス(ベネズエラ)を3回TKOに下し、しぶとくトップ戦線に踏みとどまった。絶えずプレスを仕掛けてくるファイター寄りだが、スピードはさほどでもない。14連続KOで来年の世界挑戦につなげる可能性も十分にあるが「名前を売ろうとか、無理に倒そうとかは考えていない。しっかり戦略を立て、やることをやって、勝ちをつかんできたいと思う」と小原は自然体を強調する。

 東洋大学では村田の1年後輩にあたる小原。偶然にも同日に米国のリングに上がることになった先輩に対し「しっかり勝って、あいさつに行きたい」と必勝を誓った。

仙台で江藤、木村、粟生がそろい踏み

 28日にはゼビオアリーナ仙台でダブル世界タイトルマッチが開催される。WBC世界スーパーフライ級王者のカルロス・クアドラス(メキシコ/33勝26KO1分)に挑戦するのは前東洋太平洋フライ級王者の江藤光喜(白井・具志堅)。13年8月には敵地タイでWBA世界フライ級暫定王座を奪う殊勲を挙げているが、これは日本未公認。それでもタイでの初防衛戦(12回TKO負け)を含め、貴重な経験を積んでいることは間違いない。

 帝拳ジムと契約を結ぶクアドラスはアマキャリアも豊富。躍動感あふれる出入りで攻防を展開し、ここまで4連続防衛を果たしている。対する江藤は何より野性味のある強気なファイトが売り。階級を上げ、減量苦から解放されることで一層の本領発揮が期待される江藤三兄弟の長兄が平仲明信さん以来、約23年ぶりとなる世界のベルトを故郷の沖縄にもたらすことができるか。

 もうひとつのWBC世界ライトフライ級タイトルマッチは昨年末、八重樫東(大橋)を左ボディ一発で沈める7回KO勝ちで王座決定戦を制したペドロ・ゲバラ(メキシコ/26勝17KO1敗1分)に前日本ライトフライ級王者の木村悠(帝拳/17勝3KO2敗1分)が挑む。

 懐深くアップライトに構え、上下の打ち分けもたくみな26歳の王者は2度の防衛に成功し、ますます自信を深めている。元アマ全日本王者からプロ転向した32歳の木村は、アマ仕込みの高い技術と堅実な試合運びが持ち味。ともに中・長距離を得意としており、お互いの土俵でのレベルの高いせめぎ合いが予想されるが、その攻防において常に先手を取り、王者の上を行くことができるか。初防衛戦も初回の左ボディ一発で終わらせた決定力はやはり脅威。打たせずに打つ、木村のボクシングを最後まで遂行できるかがカギになる。

 28日の仙台では元世界2階級制覇王者の粟生隆寛(帝拳/27勝12KO3敗1分1無効試合)もリングに上がる。今年5月、3階級制覇を懸け、ラスベガスでWBO世界ライト級王座決定戦に臨んだが、体重超過のレイムンド・ベルトラン(メキシコ)のパワーに押され、2回KO負けを喫した。しかし、試合後のドーピング検査でベルトランに陽性反応が出る。禁止薬物使用が発覚し、公式の結果は無効試合にあらたまった。

 試合前から試合後に至るまで波乱の展開に振り回された粟生の復帰戦の相手はガマリエル・ディアス(メキシコ)に決まった。3年前、保持していたWBC世界スーパーフェザー級のベルトを奪われた因縁の相手。「KOで勝つことがリベンジになる」と粟生は明白な形での雪辱を誓っている。

丸田陽七太がプロデビュー戦

 9日には東京・後楽園ホールで東洋太平洋&日本ミドル級タイトルマッチが行われ、王者の柴田明雄(ワタナベ/26勝12KO8敗1分)が東洋太平洋は5度目、日本は4度目の防衛戦に臨む。挑戦者の前原太尊康輝(六島/9勝9KO1敗1分)は13年の全日本新人王MVPで、現在7連続KO勝利中の22歳。スキルやキャリアでは柴田が圧倒的に上回るが、190センチの長身を誇るサウスポーの前原には勢いと一発があり、決して侮ることはできない。IBF世界ミドル級11位にもランクされる経験豊富なベテランが壁となって立ちはだかるのか、野心に燃える若手が下剋上を果たすのか。国内ミドル級の新旧対決にも注目である。

 22日の大阪・住吉区民センターではIBF世界スーパーウェルター級5位にランクされる前日本同級王者の細川貴之(六島/27勝9KO10敗4分)がデニス・ローレンテ(フィリピン/49勝30KO6敗5分)の東洋太平洋同級王座に挑むが、同じリングでプロデビュー戦を迎える丸田陽七太(森岡)に注目が集まっている。その対戦相手はIBF世界バンタム級11位、WBC14位のジェイソン・カノイ(フィリピン)。15歳以下の全国大会で活躍し、高校時代にはインターハイ2年連続準優勝、アジアジュニア選手権銅メダルの実績を残した丸田だが、右に強打を秘めるカノイは今年5月の試合で、WBA世界スーパーフライ級暫定王座を獲得したこともあるドリアン・フランシスコから3度ダウンを奪う初回TKO勝ちで圧勝している。強気のマッチメークは果たして、将来を嘱望される18歳に吉と出るのだろうか。
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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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