亀田興に引導を渡した河野の右フック 米国ファンを沸かせた日本人世界戦

杉浦大介

興毅、唐突な終幕「良いボクシング人生」

「試合前からこれがラストマッチと思っていた。そのために悔いを残さないように練習してきた。勝って終わりたかったけど、綺麗さっぱりやめますよ。3階級制覇もできて、良いボクシング人生だった」

 思いがけない引退発表だった。10月16日(現地時間)に米国シカゴのUICパビリオンで行われたWBA世界スーパーフライ級タイトル戦で、王者の河野公平が4階級制覇を狙った亀田興毅に3−0(115−109、116−108、113−111)の判定勝ち。その直後、控え室の前で行った会見で、28歳の元王者は自らのキャリアに幕を引いた。

「4階級というのは1つの切符。次のビッグステージに上がるための。俺はこの次の展開もだいたいイメージしているから、勝った後に話しますよ」

 前日の計量後に残したそんな言葉は、唐突な終幕の伏線だったのか。

 例えアンチファンでも、亀田が日本人離れした存在感を持ったボクサーだったことを否定するのは難しいだろう。取り扱いの難解な記録と、簡単には忘れられない記憶。その2つをボクシング界に残し、風雲児はリングを去る。

 そんな亀田が河野を相手に演じた“ラストファイト”は、反則応酬のダーティな攻防だったが、力のこもった熱戦ではあった。KOの予感はなくとも、2人の日本人は最後まで激しく手を出して米国のファンを沸かせ続けた。

ローブローが勝負の分かれ目に

減点なども取られる試合となったが、日本人2人による米国での世界戦はファンを沸かせ続けた 【写真は共同】

 勝負の分かれ目となったのは第2ラウンドの攻防――。序盤に河野が右を当てて先手を取るも、残り約30秒の時点で亀田の左ボディブローがベルトラインに炸裂し、王者は思わずニュートラルコーナーにうずくまる。このパンチをレフェリーはローブローと判断し、河野に休憩時間をプレゼントした。

 倒れる直前のパンチはともかく、その前のパンチは確かにローブローに見えた。ただ、リングサイドで見ていても、後に映像で振り返っても、休憩が必要かどうかは微妙に思えたことも確かである。

「2ラウンドのボディ。あれは俺、正直ダウンやと思いますけど」

 試合後にそう語った亀田だけでなく、実は河野の方も「ちょっとボディ効いたな。やべっと思った」と振り返っていた。いずれにしても、この場面を境に、試合の流れはほとんど雪崩現象のように一気に河野の方に傾いていく。

 レフェリーが試合を再開した直後、右ストレートをカウンターで決めて河野が値千金のダウンを奪う。その後、3ラウンドには度重なるローブローで亀田に2度の減点。ボディブローを出しづらくなった挑戦者は、以降はジリ貧に陥り、河野は小刻みな連打と旺盛な闘志で試合の主導権を手放さなかった。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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