女子ボクシング、人気向上のきっかけへ 2つの世界戦から受け継がれるバトン

船橋真二郎

白熱したライバル対決

小関(右)と宮尾の王座統一戦は、会場の熱気に後押しされるように白熱した 【田栗かおる】

「女子にも、こんな雰囲気がつくれるんだと思うとうれしいですね」

 3日前、同じ場所で日本人女子初の主要4団体での3階級制覇を成し遂げた藤岡奈穂子(竹原慎二&畑山隆則)が観客席から会場を見渡し、感慨深そうにこう話した。10月22日、小関桃(青木)と宮尾綾香(大橋)の王者同士の統一戦。WBCアトム級王座を7年にわたって15連続防衛中の小関、WBAライトミニマム級王座を5連続防衛中の宮尾、それぞれのサポーターが試合前から大声援を送り、東京・後楽園ホールは熱気に包まれた。

 両陣営が「女子ボクシングの起爆剤となり、人気向上のきっかけになれば」と実現した国内ライバル対決は、その熱気にも後押しされるように白熱した。自ら対戦を直訴した小関のほうに、より気負いと硬さが感じられた初回。安定王者の小関がダウンを奪われる波乱の展開で幕を開ける。ダウンはサウスポー(小関)とオーソドックス(宮尾)の前の足が交錯する不運も手伝ったものではあったが、宮尾の左フックが確かに小関を捉えていた。

「スタミナのことは考えず、もう行けるところまで行ってやろうという気持ちだった」(小関)
 いきなりの2ポイントロスが小関に火をつけ、展開は加速した。モーションが小さい上に的確な左ストレートを次から次と繰り出し、圧力を強めていく。

「想定したとおり、やりづらかった。圧力が強く、デカく見えた」(宮尾)
 宮尾も4回に右で小関に鼻血を噴き出させたが、打ち返さなければ、という意識が強くなったこともあり、持ち味であるフットワークが次第に機能しなくなる。5回終了時の公開採点は3者ともに47対47。だが、互角のポイント以上に宮尾は追い込まれていたはずだった。

『つぶし合いではなく、高め合い』

勝利にも笑顔は少なかった小関だが、好試合を演じた充実感は大きかった 【田栗かおる】

「(宮尾が)足を使うのも疲れてきたなと感じたし、よっしゃ、ここからだ、と思ったんですけど。そこから眼の色が変わって、打ちながら出てくるところもあったし、今までの相手とは気持ちが全然違った」(小関)
 小関の左が先行する展開に変わりはないが、宮尾も最後まで食い下がった。王者同士の意地と意地のぶつかり合いは判定に持ち込まれる。両サポーターが息をのんで待った採点は1者が95対94、残る2者が96対93の3−0。WBC王者の小関に凱歌が上がった。

「応援してくれる人、支えてくれる人たちがいるから、自分が輝けると再認識した」(小関)

「応援してくれる人たちへの感謝の気持ちでいっぱい。良い試合だったよ、と言ってもらえたら、ちょっとは報われるかな」(宮尾)

 リング上と会場が呼応し合うように試合は盛り上がった。女子では国内初の統一王者となり、16連続防衛は4団体統一女子世界ウェルター級王者のセシリア・ブレークハス(ノルウェー)に並ぶ女子の最多連続防衛世界記録。だが結果を手にした小関が何より噛みしめたのは、好試合を演じた充実感だった。
「精も根も尽き果てるくらいに出しきった、そう思える試合をしたかったし、お互いにそうだったと思う」

 技術的には練習してきたことを思うように出させてもらえなかったと、小関に笑顔は少なかった。だが、その悔しさはこれまでとは違った悔しさであり、競技者としての喜びと言い換えられるものだろう。

「いつもは悲壮感を漂わせるように練習していたのが、今回は本当に楽しそうで生き生きしていた。大橋(秀行)会長が『つぶし合いではなく、高め合い』とよく言っていたんですが、こういうことかと。試合を組んで良かったなと、練習段階から感じていた」

 日本プロボクシング協会の女子委員長も務めている有吉将之・青木ジム会長が振り返ったように、悔し涙を吐き出したあとで会見に応じた宮尾もまた前を向いた。
「こんな大舞台でできて、やってて楽しかったし、とても良い経験になった。次に生かしたい」

1/2ページ

著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント