振付師・宮本賢二から見た羽生結弦の魅力 自分に厳しい「無邪気な20歳」への期待

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宮本賢二が振り付けた羽生結弦のエキシビションプログラム『花になれ』 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 2012−13シーズンから宮本賢二は、羽生結弦(ANA)のエキシビションのプログラムを振り付けている。その過程で五輪王者に抱いた印象は「常に努力を惜しまないし、自分にも厳しい」というもの。振付師としての視点から見ても、練習や試合で100パーセント以上の力を注ぎ込む姿が、表現面において魅力的に映るのだという。細部に至るまで追求し、妥協はしない。だからこそ羽生は世界の頂点にたどり着けたのだろう。また共にトップの舞台で活躍する者同士、宮本と羽生は感覚で通じ合う部分があるようだ。

 その一方で、リンクを離れれば「(羽生は)20歳の無邪気な青年」。宮本は笑いを交えながら、好きなものにとことんこだわる金メダリストの性格を表すエピソードを明かしてくれた。

コピーの後に自分のこだわりを入れる

宮本の羽生に対する印象は「一生懸命な選手」 【スポーツナビ】

――12−13シーズンから羽生選手のエキシビションを振り付けていますが、どのような経緯だったのでしょうか?

 最初はアイスショーの関係で話をいただいて、振り付けをしたという感じです。羽生くんサイドからも、アイスショーサイドからも確かそういう話が来たと思います。

――羽生選手との振り付けの流れはどういうふうに行われたのでしょうか?

 まず滑りたい曲を聞いて、それから使うジャンプとスピンを何個入れるかを聞きました。エキシビションなので何をしてもいい。それらをメモしておいて、そのときは歌詞がある曲だったので、「曲をよく聴いて、歌えるくらいまでになっていてほしい」と伝えました。そうしたらもう歌えていたので、「じゃあ、楽だね」と振り付けを始めました。

――羽生選手に対してどんなイメージを持ちましたか?

 一生懸命な選手だなと。本当に集中しているというか。1個何かをすると、他は何も聞こえない選手なんだなと思いましたね。

――何かこだわりは感じましたか?

 最初は僕の動きを一生懸命コピーをするようにしてやっていたんですけど、そこからより自分らしくできるように動いていました。だからコピーの後に自分のこだわりを入れるんですかね。まずはしっかり見てコピーをすることを重視していました。

100パーセント以上の感情を出す

羽生の競技者としての強さは「自己暗示が強い」ところだと宮本は言う 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――他の選手と決定的に違う部分は?

 ジャンプがうまい。やっぱりそこはちょっと飛び抜けていますよね。

――表現の部分では?

 彼は適当に練習をしないんですよ。10回練習する中で、確認したいこととかがあるじゃないですか。動きが合っているかどうかというようなことですね。3分あるうちの20秒だけとか、最後の1分をやるとか、そういう感じで練習をするんですけど、彼は常に最初から最後まで100パーセント以上の力を入れて練習をする。常に一生懸命やるので、それが表現に対してもいつもより悲しく見えたり、強く見えたりというのが自然に出てくる印象を受けます。常に努力を惜しまないし、自分にも厳しいですね。

――自分に厳しいというのはどういうところで感じましたか?

 手の動きが少しずれたくらいなら、僕は「別にそこまで変わらへんよ」と思うんですけど、「いや、今のはちょっと角度が」とか彼は言いますね(苦笑)。あとジャンプに入るタイミングも、「今のはピアノの音からちょっと外れたので、僕は合わせたい」とか、「スピンのときの手はこう、足は伸びているから手は曲げたい」とか、「スピン中に手を動かしたい」とか。もう本当に曲をしっかり聴いて、こだわりがいろいろあるんだなと思います。

――細かいところは宮本さんも見ていて気づきますか?

 気づきますけど、僕はそこまで気にならなかったんです。でも本人は少しずれていたとすごくこだわるというか、気になるんでしょうね。

――振付師としての視点から見て、羽生選手の魅力はどういう部分ですか?

 やっぱり常に100パーセント以上の感情を出す動きをするというのが彼の魅力ですよね。

――競技者としての強さはどういったところに感じますか?

 自己暗示が強いというか、試合までに自分をどう持っていくかというのを練習のときから考えているんだなと。簡単にトリプルアクセルも4回転も跳びますけど、それをどう力を抜いて体力を使わずにジャンプするのか。それを普段の練習から意識して、試合にきっちり合わせてくるというのがすごいなと思います。

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