スプリンター・桐生祥秀が目指す走り シーズンを終えて振り返る2015年

折山淑美

10秒09で3年連続ランキング1位

シーズン最後のレースでリオ五輪の参加標準記録を突破。それでも「自己ベストしか意識していなかった」と悔しさが残る 【写真は共同】

 今年はシーズン初戦の3月28日テキサスリレー(米国)で、追い風3.3メートルの参考記録ながら9秒87で優勝し、ファンを興奮させた桐生祥秀(東洋大)。その後は右太もも肉離れで日本選手権を欠場し、世界選手権出場とはならなかったが、9月11日の全日本インカレで復帰すると、その大会を10秒19で制し、22日からの関東学生新人選手権も10秒19で優勝。そして10月18日の布施スプリントでは、リオデジャネイロ五輪参加標準記録を突破する10秒09でシーズンを終えた。

「布施の時はリオの標準を突破する自信はあったし、向かい風が吹いても切れると思っていました。だからそこは狙っていないというか、本当に自己ベスト(10秒01)しか意識していなかったので、どちらかというと満足せずに終わった感じですね。ただシーズンを振り返れば、最初と終わりが良かったので。最後に日本ランキングもトップタイになって、3年連続で1位になれたのは良かったかなと思います」

気持ちの盛り上がりが足りなかった前半

シーズン前半は気持ちが盛り上がらないレースもあったと話す桐生 【スポーツナビ】

 だが反省点もある。それは春シーズンに自分の気持ちを盛り上げられなかったことだ。特に関東インカレ(5月/神奈川・日産スタジアム)の時には気持ちが乗らず、脚も重い感じで試合モードになっていなかったと言う。
「そういうのが今年はメチャクチャあって……。あんまり『走るぞ!』という気持ちにならなくて、『あっ、試合がきた』という感じで走っていた感じでした」と振り返る。

「テキサスで走った時は『9秒台もすぐに出せそうだ』と思ったけど、織田(記念国際、4月/広島広域公園陸上競技場)はダラダラ走った感じで良くなかったので……。体は疲れていなかったけれど、もう9秒台も出るだろうと思って、自分で自分を追い詰めてしまったところはあります。それにテンションの問題もありました。自分はテンションが高くないと走れないので。米国と違うのは仕方ないけど、日本の試合は何か静かすぎるというか、織田もドンヨリした雰囲気で、その前がテキサスだったから、その違いを大きく感じてしまったと思います。フライングが1回あった時点で無理だと思ってしまって、スタートもキレが無くなってしまいました」

 海外の試合は小さな大会でも観客の声援や会場も明るく、どこかお祭り気分的な雰囲気が流れている。そういう試合では選手も自然にテンションが上がってくるものだ。だが、日本の試合は張りつめた空気が漂い、今は観客の「9秒台、9秒台」という願いがジワリと肌にまとわりつくような雰囲気さえある。桐生は「そういう中では、自分でスイッチを入れないといけないのですが、無理やりやろうとすると『スイッチを入れなきゃ』という気持ちになるから体がついていかないんです。そういうのは海外(のレース)を経験してから感じるようになりました」

 関東インカレも、世界リレー(5月/バハマ・ナッソー)という盛り上がった試合で銅メダルを獲得した後だった。だからこそ雰囲気の落差が大きすぎ、自分の気持ちを盛り上げられなかったようだ。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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