女子ボクシング、人気向上のきっかけへ 2つの世界戦から受け継がれるバトン

船橋真二郎

国内トップの藤岡はマッチメークに苦労

日本人女子初の主要4団体での3階級制覇を成し遂げた藤岡奈穂子(右) 【田栗かおる】

 小関と宮尾のように相応のレベル同士が対戦すれば、面白い試合になることはあらためて証明されたが、女子ボクシングを取り巻く環境は厳しい。何より選手層が少ないため、いまだに国内ランキングを整備することができず、日本タイトルもない。東洋太平洋ランキングを見ても、10位まで名前が埋まっている階級はひとつもないのが現状。世界王者になったとしても、マッチメークに苦労する状況に変わりはない。テレビや有力スポンサーでもつかない限り、海外から強豪選手を招聘する資金を準備するのは難しく、悪条件をのんで海外に出るか、限られた交渉力のなかで挑戦者を用意するほかない。

 現在の日本女子ボクシングのトップであり、海外で高い評価を受ける藤岡にしても、何ら状況は変わらない。過去2戦は保持するWBAスーパーフライ級王座にこだわらず、敵地で強豪選手と拳をまじえた。昨年11月にはドイツで通算17度の防衛を誇る(当時)スージー・ケンティキアンのWBAフライ級王座に挑戦して判定負け。今年3月、今度はメキシコでWBCフライ級王座を14連続防衛した実績を持つマリアナ・フアレスのWBCインター・スーパーフライ級王座に挑み、見事に判定で勝利した。今回も当初はベストウェートのフライ級で世界挑戦を模索したが「フライ級でWBC1位になっても指名試合の声が懸からず、こちらから働きかけ、メキシコに行ってもやりたいと言ったが、ダメだった」(柴田貴之マネージャー兼トレーナー)。

 結局ライトフライ級まで可能性を広げて交渉するもまとまらず、浮上したのが空位のWBOバンタム級王座決定戦。階級はさらに上。相手のユ・ヒジョン(韓国)は実績も力も藤岡には到底及ばない。あくまでも強い王者に勝っての複数階級制覇を目指した藤岡にとっては不本意だったが、この8月で40歳。ベストな条件を待つ時間はなく、すぐに気持ちを切り替えた。
「ただ試合をするだけでは盛り上がらない。持っているものを最大限出して、どれだけ魅せられるか」

 初回から出入りとボディワークでユをまったく寄せつけなかった。ラウンドごとに見せ場をつくり、会場を沸かせた。
「(8回に)左フックが骨まで感触があるくらいにジャストミートして、痛めてしまった」

 それでも最終10回は開始から気迫の連打で押し込んだ。最後まで階級の壁に阻まれる形となったが、終始KOを狙い続ける意欲は存分に伝わった。採点は100対90が2者、99対91が1者のほぼフルマーク。圧倒的な結果にも「倒して『ワーッ』というのが欲しかったし、自分としては物足りない」と悔しがった。

念願の女子ボクシング会を開催

勝利者インタビューで「女子ボクシングを盛り上げていくので応援してください」と話した藤岡 【田栗かおる】

 藤岡には女子ボクシング界の牽引役という強い自覚がある。9月には自らが会長となって、念願の第1回女子ボクシング会を開催。ジムの垣根を越えて、女子ボクサーがOG、関係者を含めて約40名集まり、全員で女子ボクシングを盛り上げようという思いを共有した。それから初めての開催となった女子の世界戦のリングで勝利者インタビューを受けた藤岡はこう呼びかけた。
「今月も来月も、まだ女子の世界戦があります。女子ボクシングを盛り上げていくので応援してください」

 小関と宮尾の統一戦が期待以上に盛り上がり、「いい流れ」と藤岡は喜んだ。次は11月の後楽園ホール。11日はダブル世界戦。“モデルボクサー”の高野人母美(協栄)が2階級制覇王者のダニエラ・ロミーナ・ベルムデス(アルゼンチン)のWBOスーパーフライ級王座に挑戦。5月に続き京都から東上するWBOミニマム級王者の池原シーサー久美子(フュチュール)が神田桃子(勝又)との3度目の防衛戦に臨む。13日にはIBFライトフライ級王者の柴田直子(ワールドスポーツ)がマリア・サリナス(メキシコ)を迎えて4度目の防衛戦。女子ボクシング会の開催に携わった柴田は藤岡の3階級制覇戦、小関と宮尾の王座統一戦を会場で見守った。「刺激を受けましたし、情けない試合は絶対にできない」とIBFから2014年の女子年間MVPに選出された力を見せると誓った。

 さらに12月には神戸から福岡へと女子の世界戦はつながっていく。11日は神戸市立中央体育館で元WBAミニマム級王者の多田悦子(真正)がIBFミニフライ級王座決定戦に臨み、20日は福岡市九電記念体育館でWBCミニフライ級王者の黒木優子(YuKOフィットネス)が前IBF同級王者のナンシー・フランコ(メキシコ)と3度目の防衛戦を迎える。多田も黒木も都内で開かれた女子ボクシング会にはるばる足を運んでおり、思いは同じ。藤岡から小関、宮尾と受け継がれたバトンがつながり、女子ボクシングを盛り上げようという思いがリングでしっかり表現されるのか。期待したいと思う。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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