亀田和毅に“いい経験”だった米国2戦目=世界で名を売るためにはこれからが勝負

杉浦大介

9ラウンド以降左目をカットしてやや苦戦

WBO世界バンタム級タイトル戦で正規王者の亀田和毅が暫定王者アレハンドロ・ヘルナンデスに判定2−1と辛勝した(写真は前日の記者会見より) 【写真は共同】

 アメリカ進出第2戦での亀田和毅は、痛烈なKO勝利を飾った今年7月の第1戦同様に本場のファンにアピールすることは叶わなかった。

 現地時間11月1日、シカゴのUICパビリオンで行なわれたWBO世界バンタム級タイトル戦で、正規王者・亀田は暫定王者アレハンドロ・ヘルナンデス(メキシコ)と対戦。序盤からスピード豊かなパンチで順調にポイントを奪った際には、後半にかけての支配的なフィニッシュも少なからず予感させた。

 しかし、第9ラウンドに左目をカットして以降はやや苦戦。終盤ラウンドには被弾が増え、押され気味の中で12ラウンド終了のゴングを聴いた。採点は2−1(115−113が2人、113−115が1人)に割れたものの、亀田の勝利自体に疑問の余地がなかったのは事実ではある。ただ、終盤ラウンドにはパンチの的中率は下がり、大きな山場を作ることはできなかった。

「後半目が切れてから、ペースが向こうの方に行った。向こうもチャンピオンやし、それなりにいい選手。簡単には勝たせてくれない」
 試合後の亀田は「いいファイトできたかなと」と言いつつも、終盤にペースを譲り渡したことは認めている。明白な形で王座統一、3度目の防衛を果たしながらも、内容的には画竜点睛を欠いた感は否めなかった。

ファンを喜ばせる意思を示した接近戦

 もっとも、見栄え良い試合をするのが難しいベテランを相手に、とりあえずは明白な勝利を飾ったことには少なからず意味はある。
「相手は40戦以上のキャリアがある(注/ヘルナンデスは試合前時点で28勝(15KO)10敗2分)。世界戦もいっぱいやって、強い選手とばかりやって、うまいところもいっぱいあった。左目が切れたのは初めてやし、カットは初めてで少し焦った部分もあった。これもいい経験だと思う」
 この日の試合を振り返り、亀田は“いい経験”という言葉を何度も使った。まだ23歳。しかもボクシングの本場・アメリカではわずか2戦目ということを考慮すれば、確かにその通りなのだろう。

 7月にラスベガスでパンルアン・ソー・シンユー(タイ)を7ラウンド1分35秒でストップした際には、鮮烈なKOシーンで地元でも軽く話題になった。ただ、特に軽量級で、亀田のようにパンチャーではない選手が毎戦のようなきれいな勝ち方をするのは至難の業。長期戦も覚悟せねばならず、そしてそんな長丁場の中でも、何かの形で客を魅了する術を見つけていかねばならない。

「お客さんはチケットを買うて試合を観に来てくれている。いい試合せなあかん、インファイトもせなあかんといのも心の中にある。俺のスタイルじゃないんだけど、がむしゃらにいこうというのもあった。それが空回りした部分もあったけど、これも経験やから」
 本人が振り返った通り、ヘルナンデス戦での中盤ラウンドにはサイズで劣る相手に自ら接近戦を挑む気概を見せた。エンターテイメント性が重視されるアメリカのリングで、少なくともファンを喜ばせる意思を示したことは、恐らくは日本で認識されている以上に好意的に受け取られるはずだ。

亀田3兄弟はアメリカで売り出しやすい商品

和毅の前座で1年ぶりの勝利を手にした長兄の興毅、元王者の次兄・大毅と合わせ、日本の“ボクサー3兄弟”はアメリカのプロモーターにとって売り出しやすい商品であるという 【写真は共同】

 この日の前座で1年ぶりの勝利を手にした兄の興毅、元王者の大毅と合わせ、日本の“ボクサー3兄弟”はもともとアメリカのプロモーターにとって売り出しやすい商品ではある。諸事情で“国外追放”になったプロセスはほとんど理解されておらず、米国のファンに必要以上の先入観はない。そんな背景と、超強力代理人のアル・ヘイモンと契約していること、さらにこの日に“戦う姿勢”を誇示したことを考えれば、和毅には来春にも再びアメリカのリングに立つチャンスが間違いなく訪れるだろう。

 今回のヘルナンデス戦に先駆け、アメリカ国内ではすでに和毅とイギリス人のWBA世界バンタム級王者ジェームス・マクドネル(28歳/24勝(11KO)2敗1分)との統一戦が内定と伝えられた。
「ウチのマネージャーのヘイモンと話して、今度はどんなファイトを組んでくれるか。俺がやりたいのはもう向こうに言うてある」
 和毅本人も前抜きな様子のこのファイトは、来年早々に米国内で開催予定。大興行のメインイベントになるカードではないが、恐らくはセミファイナル格でメガケーブル局の『Showtime』に生中継されることは濃厚。だとすれば、それなりに話題を呼ぶ試合となるのではないか。

世界で“亀田和毅”を認めてもらうために――

 ただ……より注目される舞台に立つならなおさら、次はヘルナンデス戦よりもさらにいい内容のファイトをみせなければいけない。
「亀田和毅はアメリカでスーパースターになりたいようだが、パンチの軽いヘルナンデスに苦戦しているようでは絶対に無理だ」
 ヘルナンデス戦の終了直後、アメリカで最も権威あるボクシング雑誌、リングマガジンのナイジェル・コリンズ元編集長はそんなツイートを残していた。

 実際に、ヘルナンデス戦のようにスピリットを示すことで許容されるのはここまで。今後も本場でやっていきたいのなら、7月のパンルアン戦のように、地元関係者、ファンをもうならせる戦いぶりでアピールをし続ける必要がある。実力さえ示せば、“セカンドチャンスの国”アメリカでは過去は無視してもらえる。しかし、試合内容で魅せられない場合には……。

「俺は昔からボクシング初めてから日本だけでなく世界で“亀田和毅”という名前を認めてもらいたかった。引退して、50年後でも100年後でも和毅はすごかったなと言われるボクサーになりたいというのが昔からの夢」 
 アメリカの舞台への想いを尋ねると、和毅からはそんな元気な答えが返って来た。しかし、言うは易し、行なう難し――。彼が足を踏み入れた新大陸は、「So what have you done lately?(それで、最近は何をやったの?)」がキャッチフレーズの厳しい世界。ここでどれだけ商品価値をアピールし続けられるか、しばらくはお手並み拝見といったところである。
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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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