亀田興に引導を渡した河野の右フック 米国ファンを沸かせた日本人世界戦
想定外の的中率となった河野の右
万全の状態で試合に臨んだ河野 【写真は共同】
特に目立ったのが、河野が中間距離から放ったややフック気味の右ストレートの的中率の高さである。ダウンを奪った第2ラウンドの一撃だけでない。このパンチは試合を通じて何度も亀田のアゴ、テンプルを捉え続けた。
「まさかこういう展開になるとは思わなかった。右が当たるなって。相手はディフェンシブでくるかなと思っていたんで、いろいろ展開を考えていたんですけど、(右が)思ったより当たって良かったです」
試合後、“中間距離からの右の的中率は想定外だったのでは”と水を向けると、やはり河野からそんな答えが返ってきた。
こうしてミドルレンジの攻防を河野が制し、スキルで上回ると目されていた亀田は接近戦に挑むことを余儀なくされる。「打ち合ってくれて良かった」と王者は幸運にでも恵まれたかのように振り返ったが、望んでいた打撃戦は、実際には自らの右パンチの伸びと切れ味がもたらしたものでもあった。
「もう死に物狂いで、10、11、12ラウンドはこれで死んでもしょうがないって思って、人生かけていきました。絶対に勝ってやると思って、そういうつもりでいきました」
ポイント劣勢を悟った亀田が反撃を試みた終盤ラウンドも、文字通り“決死の覚悟”で臨んだ王者は負けていない。第9ラウンドには左ショートフックをカウンターで浴びてピンチに陥るが、その後に手数が増えたのはダメージを受けたはずの河野の方。明らかにポイントでリードした第12ラウンドですらも王者は前に出たのだから、もう誰にも文句は言わせまい。
精一杯を見せた興毅のラストファイト
最後まで勝負を捨てなかった亀田興毅。それでも“勝利”を手にすることへの想いの強さは河野の方が上だった 【写真は共同】
試合後、達観したようにそう語った亀田も、“ラストファイト”で精一杯のボクシングを披露した。顔面は腫れ、決め手のなさゆえに勝機を見出すのは難しくても、最後まで勝負は捨てなかった。
ただ……それでもこの試合で“勝利”を手にすることへの想いの強さは、やはり河野の方が1枚も2枚も上だったように思える。“勝って終わりたかった挑戦者”に対し、“さらに先に進むことを熱望した王者”は、渾身の右ストレートを打ち込み続けた。接近戦でも余計にパンチを振るい、微妙なボディブローを受けた際にもベテランらしく巧みにアピールした。
幸運、運命は、自らの力で切り開くもの――。米国では初となった日本人同士の世界戦は、そんな真実を改めて示してくれた。そして、最後により勝者に相応しいものが勝ち残った。だからこそ、2人合わせて合計3度の減点が課されるダーティファイトでも、終了後の後味は決して悪くなかったのである。