成熟度が増した浅田真央の“深化” 上々の復帰戦から紡がれる新たな物語

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トリプルアクセルは見事に着氷

復帰戦となったジャパンオープンで自己ベストに迫る演技を見せた浅田真央 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 演技が終わる前から割れんばかりの大歓声が上がっていた。プログラムの曲がその音にかき消される。多くのファンがこの瞬間を待っていた。浅田真央(中京大)が試合のリンクに帰ってきたのだ。

「無事に終われたこと、昨シーズンの世界選手権のレベルで最後まで滑れたことがうれしくてほっとして、自分にありがとうという気持ちでした。不安はありましたけど、みんなと一緒に戦えることが分かったので、良い試合になったと思います」

 10月3日に行われたフィギュアスケートのジャパンオープンで、浅田は141.70点というフリースケーティングの自己ベスト(142.71点)に迫る高得点で自らの復帰戦を飾ってみせた。

 冒頭のトリプルアクセル。固唾(かたず)を飲んで見守っていた人々の期待を背に、大技に挑んだ浅田は見事に着氷する。この日一番の拍手が巻き起こる中、続くコンビネーションは2つめの3回転ループが2回転になってしまう。その後は『蝶々夫人』の曲調に合わせて、情感溢れる滑らかな踊りを披露。後半にも2回転ループが1回転になってしまったが、ブランクを感じさせない成熟した演技で日本チームを優勝に導いた。

「男子から始まり、良い演技をしてくれたので、私も足を引っ張らずにやっていこうと思いました。たぶん今までで一番良いジャパンオープンの出来だったと思います」

 演技が終わった瞬間、緊張から解き放たれた浅田は、胸に手を当てながら感無量の表情を見せた。

「不安だらけだった」復帰への道のり

演技を終えた浅田は、感無量の表情を見せた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 5月に現役続行を表明してから約4カ月半。1年間のブランクに加え、25歳という年齢(当時はまだ24歳)での復帰に当初は不安視する声もあった。浅田が不在の間、日本でも宮原知子(関西大中・高スケート部)や本郷理華(邦和スポーツランド)といった若手が台頭。世界を見てもロシアの10代選手が各大会で猛威を振るっていた。代名詞のトリプルアクセルも、エリザベータ・トゥクタミシェワが国際舞台で決めるなど、浅田だけの武器ではなくなった。

 こうした状況を理解した上で、浅田は復帰を決断した。

「スケート界ではベテランの域に入ってきていますので、もちろんジャンプの技術も大切で、それを落とさないことが目標ですけど、それだけではなくて、大人の滑りができればいいなと思います」

 5月の時点では、自身でも以前の状態にまで戻せるかどうかは未知だったのだろう。優勝した2014年の世界選手権のレベルを最低ラインとしつつも、「本当に何があるか分からない。うまくいけば試合に出られるかもしれないし、出られないこともあると思います」と浅田は慎重な姿勢を崩さなかった。

 浅田を指導する佐藤信夫コーチもこう述懐する。

「本当にどうなるか分からなかったんです。休養明けという状況は彼女も初めてだし、私も25歳になる女性の選手を指導するのが初めての経験でしたから。やはり心配な要素が多かったですし、不安だらけでした」

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