成熟度が増した浅田真央の“深化” 上々の復帰戦から紡がれる新たな物語

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スケートに対する理解が深まる

『蝶々夫人』の切ない曲調を演じきった浅田。そこにはスケーターとしての“深化”が感じられた 【坂本清】

 そうした中、佐藤コーチは練習である変化を加えた。以前は細部にわたり指示を出していたが、トレーニングを再開してからは浅田の自主性に任せたのだ。

「いつまでも子供扱いはいけないと思うし、あんまりそうすると反発も大きくなってくる。もう25歳になっていますからね(笑)。もちろん厳しく指導しなければいけないところは妥協しないでやっています。ただ今までのように『これをしなさい』という感じではなく、自分のやりたいようにやって、スケートを楽しんでいるというのはあると思います。演技で感情が出るようになったのもそういうことがつながってきているのかなと思います」

 ジャパンオープンで演じた『蝶々夫人』は、1人の男性を待ち続ける悲しい女性の物語。そうした難しい人物像を描き切るには、それ相応の表現力が必要となる。しかし、浅田は切ない曲調と見事に同化し、女性の悲哀を表した。感じられたのはスケーターとしての“深化”だ。

 佐藤コーチは語る。

「1年間休養したことで、世界の状況なんかも外からじっくり観察することができて、スケートに対する理解も深まったんじゃないかと思います。私ともいろいろと話をするわけですけど、その中でよく考えながら『こうかな、これは違うかな』という彼女なりの試行錯誤が入ってきて、時間とともに良い方向に変わってきてるのかなと思います」

 休養を経たことで、選手としても人間としてもより深みが出てきたというわけだ。浅田も手応えを感じている。

「日本人として芯の強い女性を演じたいと思って、今日は臨みました。ジャンプや技術の部分だけではなく、自分がこういう滑りをしたいという滑りができたと思っています」

「もっと上を目指せる」

浅田(右)のスケート人生第2幕は上々のスタートとなった。ここから新しい物語が再び紡がれていく 【坂本清】

 もちろん今大会だけの結果を受けて、完全復活とするのは早計だろう。佐藤コーチも「一見良さそうに見えるけど、何かの拍子で悪くなってしまうこともあるので、もう少し時間を要すると思います」と釘を刺している。浅田に至ってはこの試合での出来を「55点」と採点した。

「初戦としては今までにないくらい良い演技ができたんですけど、私の目標としては昨年の世界選手権で優勝したときのレベルを最低ラインとして臨んでいるので、もっと上を目指せるという気持ちを込めています」

 とはいえ今後に向けて期待が膨らんだのは間違いない。前日会見では「ソチ五輪シーズンよりもトリプルアクセルが楽に跳べている」と話し、実際にこの試合でもいきなり決めてみせた。技術的にも進化を遂げている。実戦を積み重ねていく上で、感覚もより研ぎ澄まされていくことだろう。

 10月下旬からはグランプリシリーズが始まる。浅田がエントリーしているのは中国杯(11月6日〜7日)とNHK杯(11月27日〜29日)。さらなる注目を集めることが予想されるが、浅田はいたってマイペースだ。

「この大会を終えたことで試合感覚は自分の中にしっかりと入ってきたと思うので、ショートとフリーの両方で良い演技ができるように、一つ一つ目の前にある試合に向けて、自分ができることをやっていきたいと思っています」

 上々の復帰戦で始まったスケート人生の第2幕。浅田の新しい物語は再び紡がれていく。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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