藤光、リレー予選敗退に募る危機感「選手も意見を言わないと」
まさかの予選敗退
男子4×100メートルリレー予選で日本は全体10位に終わった(左から長田、藤光、谷口) 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
藤光謙司(ゼンリン)は、報道陣を前にこう切り出した。29日に行われた世界選手権(中国・北京)の男子4×100メートルリレーで、日本の予選敗退を受けてのことだ。3走に入った初代表の長田拓也(法政大)からアンカーの谷口耕太郎(中央大)へのバトンパスが合わず、お互いが止まりかける痛恨のミス。38秒60の組4位、全体10位という結果に終わった。
当初1走を予定していた高瀬慧(富士通)が、26日の200メートル準決勝で右太もも内側を故障、ドクターストップとなってしまったのが大きかった。想定していた走順を大きく変え、突貫工事でバトンワークを確認するしかなかった。
「一人一人準備できたとは思うのですが、完璧な準備ができたかと言えば、そういう(準備できていないことの)節々がバトンに出てしまっていたと思います」
今大会の日本代表・男子主将の口からは、ただただ反省の言葉しか出てこない。2013年のモスクワ世界選手権、14年アジア大会と、けがなどを理由に急遽(きゅうきょ)メンバーを入れ替えることは過去にもあった。それでも、決勝進出を続けてきただけに、逃したショックは大きかった。
グラグラとゆれ始めた精神的支柱
男子4×100メートルリレー予選で3走からアンカーへのバトンパスが合わず、タイムロスに 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
リレーチームでも、最年長の藤光にはチームのけん引役が期待された。日本陸上競技連盟の土江寛裕強化副部長が、かつての朝原宣治のような「チームの精神的支柱」と信頼を寄せ、自身も「自分が引っ張っていかないといけない」と意気込む。16歳のスーパー高校生、サニブラウン・アブデル・ハキーム(城西大城西高)を筆頭に、高校・大学生のフレッシュなメンバーがそろう中、合宿先ではゴルフやテニスなどで遊びながらコミュニケーションを図ったという。
ところが、勝負どころでになって、その“支柱”がグラグラと揺れ始める。200メートル準決勝直前に股関節の違和感を覚え、力を出し切れないまま敗退。高瀬の離脱でリレーの走順も変更を余儀なくされ、不安要素を残したままリレー本番を迎えてしまった。“藤光流”のキャプテンシーを発揮するには、ここで気持ちを立て直さなければいけなかった。だが、すぐに切り替えることができなかった。
「歳もまだみんな学生と若い中で、僕に自信がないと、多分みんなも自信がなくなってしまう。『普通に走れば大丈夫だ』という雰囲気、間を作れるように、みんなが普通の状態でいられるようにと、多少の配慮はしたと思います。どこまでみんなが気持ちよく走れたかどうかは分かりませんが、僕の力不足もそういう意味ではあったのかもしれません。引っ張り切れなかったと思います」
チームでリレーを強化する意味は何か
頼れるベテランの危機感はナショナルチームを変えらるのか!? 【写真:ロイター/アフロ】
すべてのレースを終えて、藤光が口にしたのは強烈な危機感だ。ナショナルチームとしてリレーを強化する意味は何なのか、それは本当にベストな方法なのか、来年のリオデジャネイロ五輪に向けて、今こそ考え直す機会だというのだ。
「みんなが多分、チームをつくっている意味を理解し切れていないし、使い切れていない。選手には『何でつくっているの?』という状況です。ちゃんとチームがある意味を持たせるチームにしないと、つくっている意味がありません」
受身でいるだけでは何も変わらない。「もう一度強化方法やチームの考え方について、僕ら選手からも、やはり何か意見を言わないといけない」と、自らの責務を感じている。
リオの大舞台へ、頼れるベテランは“日本のお家芸”を立て直すことができるだろうか。
(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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