高瀬、200m惨敗の中にも感じた成長 リオへ涙の決意「この1年で変われる」

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今大会では思うような結果を残せなかった高瀬。レース後、リオへ向け「この1年で変われる」と涙で決意を語った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 高瀬慧(富士通)にとって、2015年は不退転の覚悟で挑んだシーズンだった。最終目標は、来年のリオデジャネイロ五輪の200メートル決勝進出。昨秋のアジア大会(韓国・仁川)100メートルの銅メダリストは、その目標のために全身全霊をささげてきた。

 今回の世界選手権(中国・北京)でも、狙いは決勝進出だったし、その自信もあった。しかし結果は準決勝敗退。何カ月も張り詰めたままだった緊張の糸がプツンと切れた。あふれる思いは大粒の涙となって、頬をぬらした。

苦心して鍛え上げたメンタル

200m準決勝、高瀬は20秒64で組8位に終わった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

「すごく充実していて、走りたい気持ちがいっぱいというか。『初めて世界大会で勝負できる、わくわくする』という、本当にそういう気持ちで臨めそうです」

 直前合宿の公開練習で、高瀬はそう語っていた。6月の日本選手権で100メートル優勝、200メートルを2位で終えた後、欧州で3試合を転戦。外国勢と競り合う感覚をつかみ、最終調整に入っていた。その表情は、かつてないほど精悍(せいかん)で、周囲にも大きな期待を抱かせるものだった。これなら世界と勝負できるはず。そんな自負もあったはずだ。

 しかし、北京で直面したのは、想定以上のハイレベルな世界だった。大会初日の100メートル予選は、10秒15の好記録を出すも、100分の3秒差でまさかの予選落ち。「200メートル(の予選)も20秒4あたりを出さないと残れないのではないか」と危機感を募らせたが、その200メートル予選も予想をはるかに上回り、高瀬の20秒33が準決勝進出のボーダーラインになった。それでも、決勝進出を目指し「自分の走りを出せれば、20秒1台は見えてくる」と動じなかった。

 その背景には、苦心して鍛え上げたメンタルがある。本来は日のあたるところはあまり得意ではないタイプ。元日本陸連短距離部長の伊東浩司氏には「日本男子短距離の顔になれ」と鼓舞されてきたが、最初は本人がそれを嫌がったという。しかし、期待された中で結果を残せなければ世界と戦えないと、今季はあえて自らにプレッシャーを課してきた。「自分がチームをけん引したい」と意欲を見せ、日本選手権前には2冠を公言した。その中でレースの安定感を維持するのは難しく、必ずしもすべてが順調とは言えなかったが、修正しては走り、走っては修正しの繰り返しを経て、高瀬はこの半年で見違えるほど成長を遂げていた。

惨敗の中で感じた成長

200m準決勝ではライバルの藤光謙司(左)やウサイン・ボルト(手前)と同組になった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 迎えた200メートル準決勝は、ライバルの藤光謙司(ゼンリン)、そして“人類最速男”ウサイン・ボルト(ジャマイカ)と同組になった。厳しい戦いが予想されたが、直前練習での感触はよく、スタートするその瞬間まで不安はなかったという。静まり返る大満員の“鳥の巣”に勝負のピストル音が響き渡る。曲走路を駆け抜け、直線に入ったが、見る間に海外勢との差が開いていく。結局、自己ベストに遠く及ばず20秒64の組8位、全体でも最下位という厳しい結果に終わった。

「コーナー抜けのところで自分があの位置では勝負できないかなと。本当にまだ自分に力がないだけだと思います。あそこで勝負するだけの力はまだなかったです」

 体も動かず、本来の走りを出すこともかなわなかった。「スタートラインにつくまではしっかり落ち着いて臨めたので、力がないのかもしれないですし、自分が力を出せてないのかも分からない」と、その理由はまだ分析できてはいない。ただ、「やっぱりアベレージを上げていかないと、勝負にならない」と、課題はしっかりとつかんでいた。

 高瀬が転機と語る3年前のロンドン五輪では、準決勝でスタンドに入った瞬間、頭が真っ白になってしまった。しかし今回は「勝負するという意気込みで臨めたのは、すごく自分の中で成長できたところ」とまた一歩進むことができた。

 自分にプレッシャーを掛け、日本の顔としてやってきたこの1年を、次の1年にどう生かすか? そう聞かれて、こみ上げる思いを抑えられなくなった高瀬。心を落ち着かせ、頬の涙をぬぐうと、言い聞かせるように、でもしっかりと来年のリオへの決意を示した。

「この1年で、変われると思いますし、中国の選手(蘇炳添)は(100メートルの)ファイナルに残って、そういう中で自分もやれるという思いもあります。この悔しさを忘れずに、この場に来年、戻ってきたいと思います」

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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