宮市の復帰を待つザンクト・パウリの人々 新たなスターに寄せられる大きな期待

宮市に求められていること

宮市の突破力はザンクト・パウリの新たな武器となるはずだった 【Bongarts/Getty Images】

 ハンブルガーSVからの期限付き移籍を完全移籍に移行したゾビーヒを除き、ザンクト・パウリのここまでの補強は宮市だけだ。一方で、9人の選手がクラブを離れた。その中には、デニス・ダウベやセバスティアン・シャハテン、ユリアン・コホ、クリストファー・ネテといった主力も含まれている。だからこそ宮市には、チームを一つ上のレベルへ引き上げてほしいとの大きな期待が寄せられていた。

「ここ数シーズン、攻撃力の弱さに泣いてきた」と、ザンクト・パウリのファンサイトを主宰するマイク・クリュケンマイアーは語る。「ストライカーに問題があったのは確かだけれども、ウイングの選択肢が少ないということも影響していた」と、問題点を説く。

 宮市こそは、そうした仕事を成し遂げてくれると考えられていた。両足でパワフルにボールを蹴ることができ、豊かなスピードを誇るアタッカーは、開幕戦から左右両サイドで新たな選択肢となるはずだった。4−2−3−1のフォーメーションで、右サイドではダニエル・ブバッラ、左サイドではワルデマール・ソボタと先発出場を争うことになるだろう。「宮市ならば、この役割を完璧にこなしてくれるはずだ」とクリュケンマイアーは期待を寄せる。

 昨季、ザンクト・パウリは危機にさらされていた。長らく下位に低迷し、何とか15位(全18チーム)でシーズンを終え、2部からの降格だけは免れた。今季は、そんなシーズンにするわけにはいかない。少しずつでもいいから、ザンクト・パウリは一歩ずつ正しい道を進んで行こうとしている。そしてまた、1部リーグという大舞台へと返り咲こうとしているのだ。たとえ、長い道のりであろうとしても。

 宮市には、大きな期待が寄せられていた。それはクラブのみならずドイツのメディアも同様で、早々に「日本の宝石」「ザンクト・パウリのロケット」「リオジーニョ」、さらには「日本のメッシ」と書き立てた。「われわれの要求にピタリと合致する。それに素晴らしい青年でもある。彼のクオリティーがわれわれの攻撃力をアップしてくれると確信している」。宮市との契約に際して、スポーツディレクター(SD)のトーマス・メグレは、こう断言した。

けがからの復帰を人々は待ち続けている

ザンクト・パウリのサポーターは、宮市の復帰を待ち続けている 【Bongarts/Getty Images】

 今季のチームを預かるエヴァルド・リーネン監督もメグレSDに同意する。「リョウはスピードと技術を兼ね備えた好プレーヤーだ。攻撃的なウインガーとして、右サイドも左サイドも難なくこなせる」。アシスタントコーチのアプダー・ラムダネも、宮市の速さに期待する。「私も現役時代はスピードのある選手だった。でも、リョウはロケットだね」

 そのスピードは、大きな武器である。そう、自身を爆発させるように、ピッチに風を巻き起こす。前述のクラウセ記者は「宮市のこれまでの大きな負傷は、ハムストリングだけだった」と話していたが、何かを感じ取っていたのかもしれない。「1対1を恐れないし、ヘディングにも競り勝つ」と好意的に見ていたが、その積極性が負傷につながることもある。

 ザンクト・パウリはプレシーズンのラージョ・バジェカーノ戦を4−2でものにした。だが、大きな代償を払った。宮市を負傷で失ったのだ。宮市の復帰は、おそらくシーズン後半戦になるだろう。その時、クラブがどのような状態にあるかは分からない。ラージョ戦は、苦い思いだけを残した。

 残念ながら今後のスケジュールは、リハビリで埋まっている。医学療法士と手を携えての、復帰に向けてのハードワークが待っている。木曜日に発表された診断結果は、左ひざ前十字じん帯の断裂。サッカーはまた、彼に大きな試練を与えた。だが、宮市がこのコミュニティーの一員であることに変わりはない。

 宮市は、ミラントーア・シュタディオンの新たなスターになると期待されている。だからこそ、長い時間がかかろうと、ひざの手術からの復帰を人々は待ち続ける。

 繰り返そう。宮市にはたっぷりと時間がある。6〜8カ月をかけて、ハンブルクの街とその人々を知っていけばいい。

 繰り返そう。たとえ時間がかかろうとも、正しい道を歩んでいく。再び大きな舞台に立つ日を目指して。ザンクト・パウリも、宮市も、そう決意している。

(翻訳:杉山孝)

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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